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人間国宝 大西勲「人が生きることと同じ、大切なのは光と影」

2002年に漆工芸の髹漆技能において、人間国宝に認定された大西勲さん。福岡県に生まれ、30歳で出会った人間国宝 赤地友哉さんへの弟子入りが大西さんの人生を大きく変えた。大工である父の手伝いをするなかで養われた感覚と、何事にも一生懸命な性格で、芸術家になるつもりこそなかったものの、この名工の道を歩んできた大西さん。その軌跡と哲学を伺います。


大西勲さん

「どもりと独りぼっちが、今の私を作ってくれた」

大工を父に持つ大西さんは、父の仕事の関係から転校も多くどもりに悩み、友人ができなかったと振り返ります。「小学校も半分しか通わなかった」と明かしながらも、父の仕事で出た木端で木工細工を作ることが楽しみだったことをとてもよく覚えていると教えてくれました。


そんな大西さんが中学生にして初めて出来た心友、入江修二さん。「彼からはソリットモデルを教えてもらいましたよ。その技術は今でも生きていると思います」と懐かしそうに話します。入江さんからは中学卒業時に「『honesty is the best policy』と書かれた石を貰いました。この言葉は僕にとっても、大切な言葉になりましたね」としみじみ。文字通り「心の友」だった入江さんから貰った石は今でも大切にしているのだそうです。


見えない努力、道具の大切さ。

「今なら道具を一目見れば、その職人さんの技量をすぐに見極めることができますよ」と語る大西さん。土木作業の仕事を経験した際には道具の大切さを学び「とても可愛がってもらって、育ててもらった」と話します。いくら若くて、力のある自分でも、道具を大切に手入れし、使いこなす年配の方には及ばないことを気付かされたのだそうです。


「使えば道具は傷むんだと。曲がったり傷んだりする。刃先が痛めば焼きを入れたりして手入れしたりしました。見えないところでの努力が大切だということを学んだ経験でした」


いつでも一生懸命でひたむきな大西さんの姿勢は、自身の大きな学びをも引き寄せたに違いありません。作品から直接見ることのない、大切に手入れされた道具。その見えない努力が作品をより、唯一無二なものにしているのでしょう。


人間国宝「赤地友哉」への弟子入り

大西さんが32歳の頃「曲輪造」を確立した赤地友哉さんのもとへ弟子入りすることになります。


「曲輪造」とは、径の異なる木材の輪「曲輪」を組み合わせて器の木地を成形し、漆を幾度も漆を塗り重ねてゆく伝統的かつ繊細な職人技です。漆の精製の工程から全て、大西さん一人で行います。


当時のことを「面白かった、まるでスポンジがね、水を吸うようでしたよ。先生は何でも自分にやらせてくれて、勉強しなさいって言ってくれていました。こんな経験は初めてでしたから、夢中になってやりました」と振り返る大西さんの声からも当時の嬉しさや、感謝の気持ちが感じられます。


そこから「曲輪造」を継承し、大西さん40歳で日本工芸展へのデビューを作品「曲輪造黄彩月文盤」で果たします。幼少期に眺めた炭鉱山の上の月をモチーフに生み出されたこの作品のユニークさは、漆器の革新そのもので、大西さんの腕が光る素晴らしいデビューとなりました。


そこから約10年後には人間国宝になった大西さん。今も変わらず「ただの漆職人」だと、謙遜します。「人間国宝になったからと言って、何も特別な芸術家ではないんです。ただ、最初から何かを築き上げることが自分には向いていたのでしょう」と、これまでの歩みを振り返ります。



人生とかさなる「ろうそくの火」

大西さんは、木にかんなをかける工程でろうそくの火を使います。機械技術の発展もあるなかで、ろうそくの火を使った作業にこだわりを持つことについて聞いてみると「光と影がとても大事。人が生きることもそうですよね。光と影があります。影ができるところが一番、質感がよく見える。その光がろうそくだと思うんです。明るすぎたら木面の凹凸が良く見えないんです。なかなか若い方に伝えても分かって貰えないですけどね」と優しい笑みを浮かべます。


どんなに大変な時期も技術を磨き続けてきた大西さんは、人が生きることも木目の凹凸も光と影がとても大切で、明るいだけの良さに任せてはいけないと話してくれました。


Hands of Isao Onishi

大西勲 大切にしている言葉

大西さんが職人として生きるうえで大切にしている言葉があります。


天ニ時アリ 地二気アリ 材に美アリ 工二巧アリ


「これは『環境と主体にありがたい発展の機会があって、さらに自然からいただく最良の材料、職人の技が揃う時、最高の技術が生まれる』という技術文化の本質として中国紀元前30年頃の世界最古の技術書のひとつ『工考記』に記されていた言葉です。とても心に残っていて、大切にしています」

この言葉に初めて出会ったとき、大西さんのなかにはとても大きな共感と、感謝しなければならないという気持ちで溢れたと言い、Gen de Artにも直筆で贈ってくれました。

これまで苦労も多かった大西さんが変わらず貫いてきた極め続ける姿勢と初心を忘れず伝統を大切にする想いは、作品を通して多くの人々の心を動かしています。





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