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日本画の未来 - 村岡貴美男が見据える

日本画の伝統的な技法と西洋絵画の特性を混交させ独自の世界を描く

1966年、京都府生まれ。日本画の伝統的な技法に、イコン(聖像画)や霊性を描く西洋絵画の性質を融合させ、人物やものの「気配」を描く日本画家の村岡貴美男さん。院展で、2020年に『深淵』で文部科学大臣賞を、2021年に『循環』で内閣総理大臣賞を受賞。2019年、女子美術大学美術学科日本画専攻教授に就任。古色を感じさせる独創的な日本画のほか、立体作品も手がけている村岡さんの芸術理念を読み解きます。


村岡貴美男

素材と向き合う日本画の魅力

現代日本画の中核を担う作家であり、第一線で活躍している村岡さんですが、日本画家になるまでの道のりは平坦なものではなかったと言います。日本画に関心を持ち、東京藝術大学を受験しようと上京したのは20歳のとき。高校生から受験勉強に打ち込んできた他の受験生と比べて、遅いスタートでした。「大学にはなかなか受からず、周囲との技術的な差も感じていて、自分は画家に向いていないと思い込み、描くことを止めてしまいました」


絵の世界から離れ、忙しい社会人生活を送るようになった村岡さんが創作の初期衝動を思い出したのは、仕事での移動中のときでした。「ぼんやりと風景を見ながら、昔のことを思い出していました。すると、それまで考えないように蓋をしていた気持ちが蘇り、また絵を描きたいと強く思うようになりました」


その後、東京藝術大学美術学部へ入学。数年間の社会人経験を経て、絵の世界に戻った村岡さんは「それ以降、絵の制作で辛いと感じることがあっても、仕事の辛さと比べれば頑張れると思えた」と言います。


そんな村岡さんが日本画に魅了されたきっかけは、素材が持つテクスチャーの力強さでした。「日本画の岩絵具は、多量のメディウム(絵具を支持体に接着させる溶剤)に包まれていないので、絵具自体がとても美しい。そして同じ色でも、使う人によって違った色合いが生まれます」


日本画の画材は扱いに手間がかかるものが多いですが、一生をかけて探求したいと思える奥深さがあったと言います。村岡さんの素材への探求心は止まることを知らず、現在は立体作品の制作も行い、実体の持つ存在感と向き合っています。


「立体作品は、遺跡や博物館にある展示作品、アンティーク、骨董品が持つ空気感から着想していることも多いですね。素材感や風合いがあって、岩絵具との相性もいい」

実際に物体に触れて向き合う制作を通して得た手応えは、村岡さんが日本画という分野で表現する上での礎にもなっているのです。


Clear Night: A Bird's Dream 浄夜~鳥の夢~


女性というシンボル、西洋画への関心

写実的な作風でありながら、村岡さんが追求するのは写真のようなリアリティではなく、そこにある人や物の気配や余韻。人物画も、身体の柔らかさの再現や物質的な細密描写にはあまり関心がないのだとか。


村岡さんが描く人物画の中でも、女性の作品はとくに印象に残ります。女性を描く理由を聞くと「描く対象として、第一に興味があるのは人物。もともとは日本画よりも、人物をモチーフに描くことの多い西洋絵画に惹かれ、関心を持っていたように思う」と、振り返ります。


女性を描くのは、男性である村岡さんにとって一生をかけても理解できない存在だから。「もちろん同性だって、他人を理解するのはとても難しいです。絵を構成する要素の中で、女性はミステリアスなもののシンボルとして機能しているのだと思います。」


そのため「セクシャルな意味合いでの女性性や母性は、重要なテーマではない」と言います。

村岡さんが描く不可解性をまとった女性は、画面の中で空気のように揺らぎながら、観る者の内的世界を映し出す鏡のように存在しています。


A Land of Calm 凪の国

語られる余白を持った芸術が、次世代へと受け継がれる

独自の作風を確立している村岡さん。新作を描く際には、完成のイメージを鮮明に思い描いているのではと思いきや、聞けば、描き始めるときに作品の方向性は漠然としているのだとか。「描き進んでいく中で、パズルのピースがはまっていくイメージですね」


完成した作品に関しても、観る人に解釈を委ねることを大切にしています。「たとえば映画でも、起承転結が分かりやすいものの方が観ていて爽快かもしれませんが、曖昧さを残して終わる作品の方が、あとで『これは何だったのだろう』と想像が膨らむのではないでしょうか」


作品は自由に見てほしいと言い「作者である自分とは違う解釈が、一人歩きしても全くかまわない」と語る村岡さん。その理由を「絵は、描いた後に語り継がれ、バトンを繋いでいくことが大事だから」だと説明します。


「作品は、観た人が語ることで内容が充実し、出来上がっていくものです。たとえば世界的名画として知られるレオナルド・ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』は当然素晴らしい作品ですが、いろいろな人が語り、共有し、掘り下げられていったことで名作に育ったのだと思います」

人々に自由に語られることで作品は輝きを増し、後世まで残されることにつながる、という芸術理念を持つ村岡さんから、観念的で深い独自の表現が生まれたのは必然だったのかもしれません。


日本画の未来に必要なのは、伝統を守りながら改革も行う姿勢

美術大学で日本画を学生に教える中で、村岡さんは型に捉われた現代の思考の傾向を感じるといいます。「美大の教育や受験勉強などシステム的な問題もありますが、今の学生はすぐに正解を求めがちです」


また、日本画の業界について「伝統を守る人も必要ですが、海外への展開を考えると、体質を変えていく必要があるでしょう。ある意味、日本画の枠から外れた人も必要です」と今後を見据えます。


そういった意味で「若い人は可能性を秘めた存在」と、確信を持って村岡さんは続けます。


日本画の持つ魅力を存分に知る村岡さんだからこそ、自身の表現を突き詰めながらも、後進と共に日本画業界を盛り上げていこう、という決意がその言葉から感じられました。



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