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「やりながら学んでいく」。ショウ・シブヤ、不平等な世界に変化をもたらす

ニューヨーク・タイムズ紙の背景となった刺激的な作品で世界にその名を知らしめた日本人アーティスト、ショウ・シブヤ。建築やグラフィックデザインを学んだのち日本でビジネスを立ち上げ、英語が全く話せないままニューヨークに移住した、異色の経歴の持ち主です。



現在、彼の作品は世界各地の美術館やギャラリーで展示されており、今年9月にベルギー・アントワープのファッションミュージアム・MoMuで始まったショー「E/MOTION」にもその名を連ね、1月には東京でも個展を予定しています。


今回シブヤは、アートの創作プロセスやインスピレーション、社会にインパクトを与える重要性について考えを語ってくれました。


アート活動の始まりの経緯

ショウ・シブヤは、生まれ育った国・日本で、クリエーターとしての道を歩み始めました。グラフィックデザインに熱い情熱をもっていたにも関わらず、一度は建築スタジオに就職しましたが、10ヵ月で退職し、夢だった出版社でグラフィックデザイナーの仕事に就き、そこで3年間を過ごしました。


やがて、グラフィックデザインのスキルを伸ばしていくために動き出す時がきたと気づき、自分のビジネスを立ち上げることにしました。「ビジネスのことは何も知らない普通の若者でしたが、私のモットーは 「やりながら学んでいく 」こと。なので、とにかく始めてみました」と当時を振り返ります。

それから1年後、ビジネスはうまく行き始めました。オフィスを借りてチームを雇うこともできましたが、シブヤはなんとも言えない物足りなさを感じていました。そんな時、彼の頭に浮かんだのが、アートのチャンスに溢れる街・ニューヨークへの移住。夢見た街へ降り立ったときに持っていたのは、東京でのビジネスで得たわずかな貯金だけで、コネも何もない状態。ですが、シブヤのキャリアはすぐに軌道に乗り始めました。


"Sunrise from a small window"

「機能性優先」

作品に映し出されるのは、建築とデザインの知識や経験から得たインスピレーション。それについてシブヤはこう話します。「家族や日本文化から教わった日本の概念『もったいない』が軸となっています。『もったいない』とは、無駄づかいをしないということ、そしてすべてのものには目的と意味がある、ということです。」


「まず始めに来るべきものは機能性です。メディアや製品に関わらず、生活をより良くするためのデザインがいつだってゴールであると信じているし、そのためにリサーチに時間をかけて解決策を見出すことも大切です。」


シブヤの消費と機能性へのアプローチを映し出した活動例が、Plastic Paperプロジェクトです。プロジェクトの目的は「文化の観察とエコの活動を融合させること」だとし、誕生以来、サステナビリティに向けたさまざまな取り組みを結ぶ多面的なプラットフォームとなっています。さらにこのプロジェクトを通じ、新しい素材を探し、プラスチックごみを削減する方法を広めることもできました。


物語を変えるアート

シブヤにとってアートの創造は、世界を良い方向に変えることができるものです。

「共感や感情を共有することで、作品を通して平和をつくり出したいのです。単純な色や形には感情を動かす力があり、感情には行動を変える力がありますから」と語ります。


さらに、アート作品の中で深く追求しているニュースについて彼は、ニュースが重きを置く「事実」や「数字」といったものを超えた世界を感じさせる力をアートは持っている、と話します。「アートは時に、ニュースよりももっとインパクトのある方法で、ニュースの重要性を伝えることができるのです」。

ニューヨーク・タイムズ紙の朝刊となった作品の制作プロセスについてシブヤは、「直感に従い、最も大切でシェアすべきだと感じたものを描いた」と語っています。それは、「ストップ・アジアン・ヘイト運動」(アジア人への人種差別撤廃運動)や気候変動などといった問題について話し合いをもたらすための、シブヤなりの手段なのです。



アートを超えた変革を

シブヤはアート活動を超えた場でも、仕組みを変えることへの情熱を表現しています。アートの領域外で積極的に取り組んでいる重要なテーマのひとつが、アメリカにおける教育の不平等です。


「学校はいまだに分離しています。その教育の結果が、低所得者層に表れている。教育の不平等が、富裕層と貧困層の生徒の成績格差を広げているのです。」


シブヤは、アメリカの学校制度の不平等さを痛感しており、それは自分の生い立ちにも通じるものがあると話します。 今日までシブヤは、クーパー・ユニオンとイェール大学でアートやデザインに関する講演を行っており、将来は公立学校でも、講演を通じて子どもたちを勇気づけたいと考えています。


「最近まで、大学を卒業していないことを中々口に出して言えませんでしたが、今では独学で学んだ方法が自分の個性だと思っています。大学に行かない、行けない子どもたちを勇気づけるためにも、自分の経験を伝えたいのです。」と締めくくりました。

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