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斉藤和のポケット - 美・癒・平和

日本画を通して美と自由を追求する、斉藤和さんは1960年京都府京丹後市に生まれました。美しく気品のある作品は、時が経つのを忘れてしまうほど魅了されます。日本画の世界に引き込まれ「京都市立芸術大学」で日本画を専攻。卒業後しんわ美術展金賞や京都美術工芸展大賞を受賞するなど、多方面で注目されています。現在、京都市を拠点に活動されている斉藤和さんに、日本画への想いやメッセージを伺いました。


Kazu Saito

日本画の虜

庭や校庭に木の棒で絵を描いたり、形を書いたりするのが好きだったという斉藤さん。日本画に心を奪われたのは、斉藤さんが高校3年生のときのこと。斉藤さんが描いた先生の似顔絵が、偶然学校に来ていた画家の目に留まり、誘われて美大予備校へ通うことになったそうです。「“日本画家”という人に初めて出会い、一瞬にして日本画・天然岩絵具の虜になりました。」と鮮明に残る魂の震えを回想します。


それまで日本画を知らず、美術の道に進むことを一度も考えたことがなかった斉藤さんにとって、目に映る美術の世界がどれも輝きそのものでした。「生で見る日本画や絵具は、美術の教科書には載っていない新しい世界で、枠にとらわれない自由な表現や懐の深さに魅了されましたね。」斉藤さんは、すっかり日本画の世界から離れられなくなってしまったと言います。


日本画の世界に引き込まれたのは一瞬だった

Kaguya「かぐや」

自然・日常はインスピレーションの泉

「小さいころから“描いてみたい”と思ったことは、ポケットにたくさんしまい込んでいます。」斉藤さんのポケットは幼少期からのひらめきで満ち溢れているようです。「いまだに実現できていないことがたくさんで、常にポケットから描きたいことが溢れている状態なんです。」とわずかに声もほころびます。

京都に暮らす斉藤さんの日常は、職人文化が根付いている傍ら、手のついていない自然がすぐ横にある”不思議な世界”を歩いているような毎日だと言います。「その両方の世界を行き来出来る環境が、絵を描くという環境に適していると思いますね。道を歩いていても絵を描いている人がいて、その人の姿さえも日常の中に溶け込んでいて、すっと受け入れられるんです。」


斉藤さんのあたたかで優しさ溢れる作品は、生活の中で身近にあるものや、自然の中で感じる想いをべースに日々生まれているようです。

自然から感じ取ったインスピレーションは、どれも斉藤さんをワクワクさせてくれるものばかりです。「ときには、興奮して平然といられないこともあるのです。その感動や感情を言葉にするのは難しい…。」しかしそんな想いを、想うがままに表現できるのが斉藤さんにとっての日本画であり、斉藤さんの心を躍らせるのは言うまでもありません。

自然から受け取った興奮をそのままスケッチし、写し取ることに加えて、もうひとつ想いがあるそうです。「感動の種を一つひとつ丁寧に確かめて、自然と繰り返し対話した“気持ち”を落とし込むことを大事にしています。」斉藤さんは、感じたままの美しさや空間を体現できる自由さが、日本画の魅力だと語ります。


言葉に表せない美を日本画に込めて

自身が求めるものは、作品を見た方が受け取った感情と同じだと斉藤さんは感じています。斉藤さんが描く日本画は、じわじわと感じる生命の力や儚さ、香り…。普通の生活の中にはあるのに、どこか非日常が感じられるような、言葉に表せない美が、人々の心を優しく、包み込みます。

斉藤さんの作品を通して生まれる“平和”や“癒し”そして“安心感”などの想いは、斉藤さんが向き合い続けている心情のひとつ。「作品を見た方と通じ合えている」と斉藤さんご自身も、そう思えるのだそうです。

「今は自分から自然と沸き出てくるものを、皆さんに癒しとして感じてもらえるような気がする。」そんな言葉も、聞くことができました。


想いをタンポポの綿毛にのせて

「コロナで自粛生活をしている京都市内の小中高へ作品集を制作し、寄贈させてもらったりしていました。タンポポの綿毛が飛んでいくように、日本画もみんなにどこまでも伝えていきたいと思って始めました。」

タンポポプロジェクトを通して斉藤さんの作品はより多くの人々の心に癒しやくつろぎを与えたことはもちろんのこと、若い人たちが”日本画”に触れる貴重な機会となっています。

他にも山口県の高校にある酒造クラブが醸造した日本酒のラベルには、斎藤さんの作品が優しく華を添えます。「日常のなかに、日本画があるってとってもいいなって思っているんです。手に取る物のなかにアートがあるって素敵ですよね。」日本画が“額”という枠を超えてより身近に親しまれて欲しいという斉藤さんの想い…その次の一歩として、またひとつ制作しているものがあると教えてくれました。それは何なのでしょうか。


「2023年の春、発売予定のスウェーデンのLonghand Electricが手掛ける“Overlook Trail”というゲームのプロモーション用の絵を制作しています。」ゲーム×日本画という新しい組み合わせには驚きです。これについて斉藤さんは「ヨーロッパの最先端技術のなかに、日本画が入っていくことがとても嬉しくて、未来につながっていく一躍を担えることを幸せに感じています。」と語ってくれました。


「私は“日本画”という言葉が大好きなんです。個展で海外の方とお話させていただく際も”和紙”や”筆”、”岩絵の具”というような伝統的な言葉をあえて使うように意識しています。」斉藤さんはご自身や作品を通して日本の誇る伝統工芸についても知ってもらい、この素晴らしい伝統を残していきたいと願っているのです。このような斉藤さんの活動の一つひとつが、タンポポの綿毛のように、優しく、力強く広がり根を張ることでしょう。


斉藤さんは“描きたいもの”のポケットから作品を世に送り出すために、今もまだ新しい表現を探している旅の途中だと言います。「それさえ見つかれば、もっともっと進んでいける。」風の動きひとつでも、表現のかたちは多種多様。斉藤さんが一番刺激をもらえる自然や人との関わりのなかで、これからも斉藤さんの日本画の旅は続きます。


Astral Gallery 「星回廊」

Snow in Time 「雪の移ろう」

By the Moon 「月の袂に」

Talking of Stars「星語り」

Eggplant 茄子


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