国内外の舞台でさらなる飛躍が期待される現代美術の国内中堅アーティストを表彰する「Tokyo Contemporary Art Award(TCAA)2024-2026」の授賞式・受賞記念シンポジウムが2月17日、東京都江東区の東京都現代美術館で開催され、受賞した先鋭的音響アーティストの梅田哲也氏と、繊維素材にまつわる技法を用いたインスタレーション作品を精力的に発表する呉夏枝(お・はぢ)氏の2人の原点や芸術性などが語られました。
高いレベルで六つの基準満たす
東京都とトーキョーアーツアンドスペースによって2018年に創設されたTCAA。第5回目となる今回は、54組の候補者から6組が最終選考にノミネートされ、梅田氏と呉氏の2人が選出されました。
授賞式には、受賞した呉氏、東京都生活文化スポーツ局の横山英樹局長、東京都現代美術館の岡素之館長、選考委員(全6人)代表兼東京オペラシティアートギャラリーシニア・キュレーターの野村しのぶ氏らが出席。香港滞在中の梅田氏はオンラインで参加しました。
横山局長は、小池百合子東京都知事のメッセージを代読し、「(受賞が)さらなるグローバルな活躍につながることを期待します」と述べました。また、岡館長も海外活動支援後の2025年度に開かれる2人の展覧会に向けて、「海外での活動の成果を存分に生かした作品展が開催されることを楽しみにしています」と期待を寄せました。
野村氏は、「発展性」や「将来性」など六つの選考基準を「高いレベルで満たしていることに選考委員の意見が一致しました」と紹介しました。
非言語的な物語を深く考慮
授賞式に続いて行われたシンポジウムでは、選考過程や2人の受賞理由などが語られました。この中で野村氏は、劇場の音響機能にフォーカスしたパフォーマンスなどで表現する梅田氏について、「視覚芸術は目で見ること、読むことに神経を注ぎがちですが、梅田さんは五感全てを信頼し、自然なかたちでそれを開いてくれることを促してくれます」と評価しました。
トーキョーアーツアンドスペース プログラムディレクターの近藤由紀氏は、写真や音声なども併用したテキスタイルのインスタレーションで表現する呉氏の作品について、「伝統的な織や布がどのように継承されてきたのか、書かれた言葉ではなく代々伝えてられてきたある種の感情、非言語的な物語、そうした要素が深く考慮された上で物理的な部分も作り上げられ、結実しています」と評価しました。
撮影:木奥惠三
語られなかった記憶をひも解く
シンポジウムの後半には呉氏も登壇し、家族の来歴を背景にした作品作りの原点、現在4章まで制作されている「grandmother island project」のテーマなどが語られました。呉氏は、「記憶の代弁者ではなく、他者としての当事者性を自覚し、語らなかった、語れなかった記憶の存在を浮かび上がらせることを大切にしました」と述べました。太平洋の島々の人々の暮らし、記憶を巡るプロジェクトの第5章では、済州島と対馬、大阪の三つの地を巡る「済州島の海女の移動」を手掛かりに制作します。
「作品から得られる記憶を親密に想像してほしい」シンポジウム終了後、呉氏は当誌インタビューにこうも語りました。「過去をどう想像し認識するかで、現在と未来も変わってくると思います」
《Floating Forest》 2017 撮影:大西正一 画像提供:広島市現代美術館
《妹からのてがみ》 2009 撮影:山本糾 画像提供:国際芸術センター青森
写真の提供:トーキョーアーツアンドスペース
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