top of page

多様性を認め合う社会への一石 三宅監督最新作『夜明けのすべて』

日本では、2月9日より劇場公開されている三宅唱監督の最新作『夜明けのすべて』。月に一度、PMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢と、パニック障害を抱える山添が同じ会社内で出会い、いつしかお互いを支え合う関係性をユーモアに富んだタッチで描いた作品。第74回ベルリン国際映画祭フォーラム部門への正式出品で話題を呼んだ本作は、第48回香港国際映画祭にも出品されました。前作『ケイコ 目を澄ませて』が香港で上映されて以来、今回が5回目の香港と語る三宅監督に、原作小説から映画制作に至るまでの背景を伺いました。


夜明けのすべて

 

Gen de Art:本作『夜明けのすべて』を制作するに至ったきっかけを教えていただけますか?

三宅監督:最初のきっかけは、瀬尾まいこさんが書かれた原作小説『夜明けのすべて』に惹かれたことです。特に、主人公2人の独特でチャーミングな個性に惹かれたのが大きいです。それが出発点となり、映画を完成まで引っ張ってくれたのはその『夜明けのすべて』というタイトル。このタイトルについて思いを巡らすことで、無事映画を完成させることができたと思います。

 

Gen de Art:今回の登場人物たちは、観客にとって共感できる部分も多いキャラクターを持ち合わせていましたが、演じられた俳優の方々からはどのような印象を受けましたか?

三宅監督:上白石萌音さんも松村北斗さんも本当にプロフェッショナルで、仕事に対して真剣な面があります。また、2人とも非常にユーモアに富んでいて、2人とお喋りをしていると、語彙力が豊富で、ものの見方も少し変わっていて、お喋りが止まりません。本当に一緒に仕事をしていて楽しい方々でした。

 

Gen de Art:制作過程で特に印象に残っているエピソードはありますか?

三宅監督:まず松村北斗さんは、初めて会う時点で、彼は役に合わせて自分の髪を伸ばしていたんです。劇中で彼の髪を切るシーンがありますが、一般的にはこのようなシーンではカツラを被ってカツラの髪を切ることが多いです。ただ彼は、この映画のために自分の髪の毛を切りたいと。そのための役作りとして、髪を伸ばしていたんです。その時点で、彼のこの映画にかける情熱、エネルギーを強く感じていました。この出来事は本当に印象的で、全ての俳優がこのような行動を取れるとは思わないので、これから素晴らしい俳優と一緒に仕事できるなという、非常に良いスタートを切れました。

 

上白石萌音さんとは、制作過程でたくさんのお話をすることができました。具体的には、映画の中のある台詞に反応してくれたんです。「たまたま隣に座ってるだけなので」という、藤沢さんのセリフがとても好きだと彼女が言ってくれました。これは、この映画を象徴するような、たまたま隣に座っていたところから始まった2人の特別な関係を表すセリフです。僕もそこで、自分が主人公2人に対して抱いている印象を話したり、映画の内容についてたくさん話すことができたのが強く印象に残っています。


夜明けのすべて

Gen de Art:今回の作品における挑戦は何でしょうか?

三宅監督:前回の映画は、ケイコさんという主人公1人の物語でした。今回は主人公が2人いるわけですから、この違いは僕にとって大きな挑戦だったと思います。どういう意味かというと、主人公が2人の場合、一方に偏ってはいけないので、2人を同時に見なければいけないという点では本当に大きな挑戦だったかなと思います。これもまた、素晴らしい俳優陣のおかげで成し遂げられたことだと思います。

 

Gen de Art:現在香港にいらっしゃいますが、現地の文化や映画祭の雰囲気はいかがですか?

三宅監督:今回香港に来たのは10数年ぶりに来て以来、5回目です。実は、今回は昨夜到着したばかりなのでホテルからほとんど出ておらず、現地の雰囲気をまだ感じられていません。例えば去年、『ケイコ目を澄ませて』が香港で劇場公開され、配給会社の人やお客さんと交流することは自分にとって非常に刺激的な時間でした。同じアジアでも町によって歴史は全く異なりますし、違う歴史があるからこそ、映画についての語りも異なるので、その点は非常に面白いですね。

 

Gen de Art:最後に、日本の観客に向けてメッセージをいただけますか?

三宅監督:映画館で見れるチャンスがある人はぜひ映画館で見てほしいと思います。映画を観る前と映画を観終わった後で、鑑賞者の世の中の見え方が少し変化するような興味深い作品になっているので、是非一度鑑賞していただきたいです。

三宅監督が、原作の魅力を活かしつつ、PMS(月経前症候群)とパニック障害を抱える2人の切なくも温かい交流を映し出した本作品。監督とのインタビューからは、相手の境遇を完全に理解できなくとも、思いやりの心を持ち続けることの大切さをユーモアを交えて穏やかに描いた原作の良さを映像化する、監督の情熱が伝わってきました。三宅監督が「この映画を観ることで世界観が変わるかもしれない」と期待を寄せているように、ぜひ映画館でこの作品の多様な魅力を味わい、新たな視点を手に入れてみてはいかがでしょうか。

bottom of page