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伊東豊雄 - 持続可能で人間性を育む建築の姿

1941年生まれ。株式会社伊東豊雄建築設計事務所代表。主な作品に「せんだいメディアテーク」「多摩美術大学図書館」「台中国家歌劇院」などがある。日本建築学会賞、ヴェネチア・ビエンナーレ金獅子賞、プリツカー建築賞など受賞多数。現在は様々な活動に携わる建築家の伊東豊雄さんに、これからの日本の建築やまちのあり方について語っていただきました。


伊東豊雄 Photo/ FUJITSUKA Mitsumasa

東京に小さなコミュニティを作る

古い伝統と革新が混在する都市・東京。


伊東さんは、建築の高層化や再開発によって各地域のまち並みの良さが失われていく事態を憂慮していると語ります。


さらに東京では人の偶発的な出会いも生まれにくい。隣に誰が住んでいるのか知らないことも珍しくないこの都市に、小さなコミュニティが点在することを望んでいるのです。

その取り組みのひとつが高円寺にある劇場「座・高円寺」(2008)。この劇場は竣工して、10年以上経ちました。現在、“自分の家”のような感覚で利用する人もいるのだとか。


心と心で人のつながりが生まれる場の創造を、伊東さんは建築家という立場から行なっているのです。

今治市伊東豊雄建築ミュージアム Photo/ Daici Ano

人の 動物的感性を蘇生する

さらに高層化と再開発で人工的な環境が増える弊害について「外で雨が降っているのか、晴れているのかも分からないような空間にいると、身体感覚が失われていく」と警鐘を鳴らします。


「ですから自分が造る建築は、動物的な感受性を取り戻せるものにしたいと思っています」


その想いを強めた分岐点となるのが、伊東さんの代表作のひとつとも評される「せんだいメディアテーク」(2000)。壁による分断を最小限にとどめ、利用者が自由に移動できる流動的な空間がつくられていて、「公園の中にいるような感覚で使える」のだとか。


「日本古来の建築には庭と縁側があり、障子を開ければ外と繋がる開放的なものでした。現代の建築は安全性の確保や管理のために内と外に境界を作ることが求められます。

それはやむを得ない。ですが、やはり僕は建築の内に自然を再現することに関心があるのです」


これほどまでに、使う人を想う建築家の伊東さんであっても「せんだいメディアテーク」に携わるまでは、一般の人から建築が歓迎されていない感覚があったといいます。ですが竣工後に訪れると、十年も前からこの建物にいたように利用している人たちの姿があり、その懸念はスッと消えたそう。「このときほど建築家をやっていてよかったと思ったことはない」と喜びを語りました。

せんだいメディアテーク

持続可能な社会を育む

昨年、主宰する事務所が設立50周年を迎えた伊東さんに、今後力を入れていきたい取り組みについて伺いました。ひとつ目は「自然の中にいるような建築のさらなる追求」もうひとつは「社会活動」だといいます。

その活動のひとつに2011年に始めた「子ども建築塾」があります。


「規制が厳しい現在の日本建築において、かつてのような自由な提案は難しい」「今の若い人たちは将来への希望を失っている。『もっと夢を持とう』と大きな声で発信していく必要性を感じた」と、私塾を始めた経緯を語ります。

今、「小学生に教えている時間が一番楽しい」と話す伊東さん。10〜12歳くらいの子どもは、常識にとらわれずに建築と向き合える年代なのだとか。

「彼らが持つ奔放さをどこまで維持していられるか、という点に興味があります」


未来の建築家に建築理論を継承する活動は、伊東さんの継続的なまちづくりの延長とも捉えられるかもしれません。


みんなの森 ぎふメディアコスモス Photo/ Kai Nakamura
Left/島紅2020マスカット・ベーリーA×シャルドネ Right/島ロゼ 2020 スパークリング マスカット・ベーリーA Photo/ Omishima Minna-no Winery


ワイン造りと建築造りは酷似している

さらに愛媛県今治市ではワイン造りにも取り組んでいます。「大三島 みんなのワイナリー」を始めた動機のひとつには、ご自身がワイン好きだったこともあるそうですが、「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」(2011)ができ、大三島に頻繁に通うようになったことが大きいといいます。


高齢化が進む大三島では、ミカン農家が栽培をやめて放棄した畑が各地に見受けられました。その土地をブドウ畑にし、若者への訴求力もあるワイン造りを始めれば地域の活性につながると考えたのです。


2019年には醸造所も完成。オンライン販売など販路を増やすなどして、成長拡大を見せているプロジェクトです。


農業のように耕し育てる

「自然との関係」をテーマに掲げる伊東さんにとって、建築とワイン造りはあまり違わないといいます。「誤解を恐れずにいえば、建築も農業」と話す伊東さんの言葉は、有機的に変化する地域やまちを耕して持続可能なものにし、建築も利用者と共に育む必要があることを示唆しているようです。


「現代建築は一般社会に浸透していないことが問題」だとする伊東さんは、「まずは一般の人に建築が楽しく自由なものであることを知ってほしい」と、付け加えました。

物腰の柔らかい伊東さんのナチュラルな言葉は優しい風が吹き抜けるようで、添えられるストーリーと共に穏やかな空間が立ち上がっていました。

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