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高仲健一: 日常のなかの、アートな世界。

19歳で二紀展に油彩画で入選。有名料亭の器や絵画などの作品も手がける高仲健一さん。現在、千葉県多喜町山中の豊かな自然の中で猫や犬、鶏などを飼い、自身で作った窯の火を熱源として家族と暮らしながら創作活動を行っています。その数々の作品は東洋の古典的な色をより深く濃く独自のものとした作品で、見る人の心を惹きつけてやみません。そんな高仲健一さんにお話を伺いました。



アートがもたらした“縁“

高校の美術の先生との出会いがアートとの最初の出会いでした。先生は二紀会に所属していた油絵画家で、もともと絵を描くのは好きだった私は先生に教えてもらいながら油絵を描き始めました。でもどこか西洋のものを真似ている気がしたのです。日本人だという意識が強かった私は、その頃から日本の絵についても興味を持ち始めていました。


奥さんと高校3年生で出会い、京都を訪れたりしたことから日本の技術やオリジンを強く意識していて。柳田邦男さんの世界や古事記とか、そういうものを油絵で書くようになっていきました。


23歳には、港区の白金にあった古民芸店のご主人との出会いがありました。新潟の古い蔵から出てきた竹の皮で包まれた上質な和紙を大量にいただき「遊びでいいから書いてごらんなさい」と言われたのをきっかけに水墨画を描き始めたのです。

李白の店主から学んだ知識や経験と今のスタイル

李白は当時、神保町にあった李朝の陶芸や民画などが置いてある喫茶店でした。ご主人のお店の設えがとても良く、お店を初めて覗いて見たときは衝撃を受けました。実は20歳のときに初めてお店に入ったのですが、話しかけることもできなくて。23歳の時に初めて自分の絵を見せたら喜んでくれて、色々学ばせてもらいました。


李白の店主からは美術の技術というより精神を学びましたね。29歳で陶芸を始め、焼けた器を店主のところに持って行くと、自身でコレクションしている500年前の李朝の茶碗の横に私の器を並べるのです。露骨に自分の器との違いがありましたよ。そうやって学ばせてもらっているうちに、李朝という国についても考えました。儒教社会だった李朝の教えを取り入れようと思い、30歳で始めていた山暮らしの山の中に一坪の東屋を建てました。毎日、漢詩や漢文を声に出して読み、その後、座禅を組むという生活を始めたのです。そのなかで自分自身のスタイルの基礎ができました。「楽しく創作する」もちろん苦しみや大変さも同じ土俵にあるものですから「楽」ではないですよ。それでも、とにかくこれが「嘘のない世界」であり、自分のスタイルなのかもしれません。


自然の中での暮らしと作品の変化

暮らし始めた頃にはあまり感じなかったのですが、この山の暮らしは私の作品づくりに大きな変化を与えてくれたと思います。奥さん、子供たちがいて、動物が沢山いて。薪を割って生活をするという山の暮らしそのものを作品化したいという思いは住み始めた頃からありました。禅からは日常が大切という姿勢を学び、それを自分自身で表現すると「楽しい」となることがわかったのです。自分が生きてきた何気ない日常すべてが本物で、表現の対象なんだって。そうしたらとても自由で楽しくなりました。


日々生まれるインスピレーション

山暮らしだけではなく、自分の人生の中の何気ない日常のすべてからインスパイアされています。禅の言葉で「今日方(まさ)に知る本来無事なることを」(元々なんの不足の無いことに気がつきなさい)という言葉が、まさにそれなのです。毎日過ごす生活の中で、どの部分を切り取っても作品にしたいなという想い。たとえば東京を訪れて、東京タワーを見たあとに美しいなと思って作品に入れ込むことも。山だけではなく、日々の中にインスピレーションがあるのです。

それでも作品が生まれないときもあります。頭の中でできたものが、実際に手がけてみると全然できていない。そういう場合には無理矢理つじつまを合わせるのではなく、無理をしないのが大事なのです。もう一方で、ほぼ出来上がっている絵があり、もう少し手を加えたいなと思ったものには、全部台無しにする覚悟で一歩踏み出してしまうことも大事です。人生も同じで怖くて踏み出さないでその手前でなんとなく生きているよりも、一歩踏み出して何かが起こっても、この一歩で魂が成長するような気がしています。


山暮らしの中での創作活動

作品の中には日々の暮らしから取り入れているものもあります。例えば、焼き物で陶器の表面を作るために最終的にかける釉薬(うわぐすり)です。釉薬の原料は灰。木を燃やした灰です。山での暮らしの中で、ご飯を炊くなど煮炊きで薪を多く使うためその際に出た灰を使っています。釉薬を使う際に、山での日々の暮らしは創作活動の中にも溶け込んでいるのだと感じています。


神楽坂「石かわ」や「虎白」など有名店で使われている作品への想い

石川さんとは石川さんがお店を始めたころに知り合いました。お店を始める一年前に私の個展を見てくださっていて、翌年「石かわ」に掛かっている掛け軸などを購入してくださったのです。

「虎白」をオープンの際には十何枚の狩猟図や文字、虎の掛け軸などを描いて欲しいと声をかけてくださいました。注文はほぼ受けていなかったのですが、その頃石川さんがお話をくださった仕事は、描きたい、描かなきゃと思っていたものばかりで。個展で買ってくださった絵などを、もっと展開して作品にしました。


たとえば「虎白」の狛犬はちょうど狛犬を作っていたころにお声掛けいただいたもの。「虎白」に飾るのだったら白い虎だろうと思い、白虎の狛犬を作りました。


どんな作品も自由に描かせてもらい、それを石川さんが受け入れ、お店に作品を置いてくださることで、話題になったり、たくさんの方に観ていただけている事は、非常に嬉しいです。


これからの高仲さんの展望

最近は油絵で怪獣の絵を描いています。これが楽しい。自分が幼い頃、他人の目など全く意識せず楽しく描いていた怪獣たちがこのリアルな日常にやってきました。陶芸でも今は怪獣を表現しています。そんな、楽しく作っていた怪獣の作品が揃ってきたので自費出版の準備をしています。

本の題名は『高仲怪獣図鑑』。自分自身の楽しいが詰まった本になるはずなので、たくさんの方に楽しんで頂けたらいいなと思っています。

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