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日本画の手法を表現ツールとして唯一無二の作品を生み出す大竹寛子の世界に迫る

岐阜県生まれ。2011年東京芸術大学大学院美術研究科日本画研究領域修了、美術研究博士号取得。2014年東京藝術大学エメラルド賞受賞。2015年から16年に文化庁新進芸術家海外派遣制度によりニューヨークに滞在。

大学院在学中から蝶をモチーフにした作品を描き始め箔や岩絵具を用いて新たな表現を展開、国内外で高い評価を得ている大竹寛子さん。日本画の伝統的な手法を基に、“流動的な瞬間の中にある恒常性”をテーマとした作品を生み出し続けています。今回は日本画というカテゴリーを超えて世界で活躍する大竹さんの表現世界に迫ります。

Artist Hiroko Otake Photo/ Yuya Takahashi

日本画の「新しさ」に惹かれ、15歳で描き始める

大竹さんが生まれた環境は、自然豊かなところ。森で蝶と遊んだり、季節ごとの花と戯れたりしながら育ったそうです。


「花が咲き、散って、種ができて、芽が出る。というような自然の循環や生命力などをとても感じていました」

幼い頃から絵を描き始め、デッサンや水彩画、油絵などを描いていた大竹さんが日本画と出会ったのは14歳のとき。本格的に日本画を始めたのは15歳の頃でした。

「長谷川等伯や円山応挙の作品を図書館で見て、そこから日本画というものが存在することを初めて知って、すごく古い時代からアブストラクトな作品を描いていたり、自然を大切にしていたり、また空間感があるようなところに惹かれて、逆に新しいなと感じて日本画を描こうと思い至りました」


その後、美術科の高校を経て、自分の技術を鍛錬させたいという気持ちから東京藝術大学を志し、同大学の絵画学科日本画専攻へと進み、博士号を取得します。

1/4 Vol.1 Artist/ Hiroko Otake

一度液化して成虫になる、蝶の生態に魅せられる

大竹さんが蝶を描き始めたのは、大学院に在学していたときだったといいます。


「きっかけは、蛹の中で蝶の幼虫が一度液化して成虫になるという過程に衝撃を受けたことです。この完全変態という過程と、大学院生の自分が人間的にも画家としても変化して成長していきたいという感覚が、蝶を描いているときにシンクロしました。その後、蝶のことを調べていくと、バタフライ・エフェクトやPsycheという言葉にも出会いました。“流動的な瞬間の中にある恒常性”をテーマにしている私に蝶というモチーフはとても合っていると思っています」


大竹さんは自身の描く絵を現代日本画と呼んでいますが、そこには日本画の伝統に敬意を払いながら、古典的なイメージを払拭し、現代に生きるアーティストとして日本画の画材や技法を使いながら、現代アートとして日本画を描きたいという思いが込められています。


素材から生まれる唯一無二の表現

Butterfly Effect Vol.2 Artist/ Hiroko Otake

大竹さんの作品には岩絵具のほかに、金箔や銀箔を用いたものが多く見られます。その理由についても語っていただきました。


「金箔や銀箔のような金属を使うということで、油絵やアクリル絵画、水彩画にはない、奥行きを生み出したり、表現自体の幅を広げたりしてくれます。箔は光を反射する素材なので、見る方向や時間帯によって違って見えるところにとても惹かれています。銀箔では硫黄で硫化させながら焼けたような色合いを出すのですが、化学変化を用いることで作品の中に自分がコントロールしきれない部分、自然に任せる部分を作っています」


大竹さんは日本に古くからある考えや姿勢にも共感を抱いています。「もともと日本にあったアニミズム(自然崇拝)や、自然から学ぶ姿勢、自然と共生する考え方なども作品を通じて伝えていけたらいいなと思っています」


ニューヨークでの経験が作品に与えた影響

2015年から2016年に現代アートの最先端の街ニューヨークに滞在した経験が、作品づくりや作品に対する姿勢に大きく影響しているそうです。


「たくさんの現代アート、コンセプチュアルな作品にたくさん触れることで、コンセプトやインパクトの大切さを学びました。海外に住んで作品を制作することで、日本画の特徴についてより深く考え知ることができ、日本画という伝統技法を用いて現代アートとしてどのように発表していくのかを考えるきっかけになったと感じています。具体的には、コンセプトをしっかりと据えて作品の強度を高め、彩度の高いビビットでインパクトのある画面作りを意識するようになりました」


「ニューヨークの個展ではたくさんのお客様が直接自分の言葉で感想を伝えてくれたので、とても勉強になりました。私にとっては、日本画の手法を新しいものとして捉え、興味を持ってもらえたことが嬉しい驚きでした」


また海外での展示経験を重ねるにつれ、自身の日本画への思いも変化してきたといいます。


「大学時代は日本画の技術を高めたり知識を深めたりすることに集中しがちでしたが、段々と日本画の技法を1つの表現ツールとして考えるようになりました。今はそのツールを使って、コンセプトをよりよく伝えたい、この情報化社会の中で私なりのアイデンティティを考えて唯一無二の作品を作りたいと思っています」


企業とのコラボレーションで広がる世界

精力的に作品作りに取り組む一方で、多くの企業やブランドとのコラボレーションなどでも活躍されている大竹さんに今後の展望について伺いました。


「企業の方からコラボレーション依頼のお声がけをいただくのですが、もっと日本画やアート自体が、多くの方の生活とより近くなるといいなと思ってお受けしています。今後も、ある有名ブランドとコラボレーションすることが決まっていて、それもすごく楽しみにしています。そのような活動を通して、私の作品を見ていただける方がどんどん増えていくと嬉しく思います」


従来の日本画という枠に収まらず、ジャンルや国境を超えて活躍する大竹さんの魅力が存分に伝わるインタビューとなりました。

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