top of page

大林組会長・大林剛郎アートと都市の関係性

1954年東京都生まれ。1977年慶應義塾大学経済学部卒業後、同年に株式会社大林組入社。2009年に同社代表取締役会長に就任。イギリスのテート美術館のインターナショナル・カウンシル・メンバーや森美術館理事、原美術館評議員、公益財団法人石川文化振興財団評議員、一般財団法人川村文化芸術振興財団評議員を務め、国内外で現代美術の普及や美術館へのサポートを行う大林剛郎さん。人々の創造性を刺激する建築や都市づくりに強い関心を持ち、美術に精通する大林さんに、文化が根付いた都市のあり方やアートへの想いを伺いました。

大林剛郎

「アーティストの発想力に衝撃を受けた」 

本社移転プロジェクトが契機

美術全般に造詣が深く、日本有数のアートコレクターでもある大林さん。小さい頃はアートには特に興味を持たずに育ったと言います。

「高校では美術部に所属し、後に同じ高校で美術部の後輩である千住博くんと知り合いになったりはしましたが、それ以外にはほとんど美術と触れる機会がなく、アートのコレクションを始めたのは社会人になってからです」

この頃にコレクションしていたのは、安藤忠雄や高松伸、アルド・ロッシといった建築家のドローイングだったのだそう。

そんな大林さんが現代美術への関心を深める契機となったのが、1999年に行われた大林組本社の移転プロジェクト。オフィス空間の中で、建築と現代美術の融合を目指した大規模でラディカルなこの試みには、草間彌生や福澤エミ、パスカル・コンヴェールといった世界で活躍する18人のアーティストが参加し、この空間の為に作品を制作してくれました。他にも70数点の主に現代美術の作品が展示されています。


芸術家の自由な発想力に触れたこのときの経験は「インパクトのある出来事だった」と、大林さんは振り返ります。

「『素晴らしい』『よかった』『ありがとう』と、アーティストたちみんなが喜んでくれ、アーティストと実際に会話ができたことは、なによりも楽しい時間でした」


この頃からニューヨーク近代美術館(MoMA)のインターナショナル・カウンシル・メンバーに加わるなど、アート業界との関係も深めていった大林さんは、建物とまちの景観、文化の関係性について考察を深めていくことになります。


これからの日本は「地方性の魅力を引き出したまちづくり」をテーマに。

2019年に『都市は文化(アート)でよみがえる』(集英社)を刊行。都市と文化(アート)の関係について考察しています。


同著の中で、安易に企画した地域振興のためのアートプロジェクトの限界や、機能性、経済性を追求する都市づくりの問題を綴った理由について、こう話します。

「東京には人口が一極集中してきたことから独自の発展を遂げ、さらに積極的に防災対策が施されました。一方で地方はずっと、東京や海外にあるものをコピーする形でまちづくりが行われてきました。これからの日本は、地方の魅力を引き出したまちづくりがテーマになると思います」

さらに大林さんは「その都市でしか見られない建築やアートを活用した好例を紹介し、既存の文化や歴史的なスポットをうまく紡ぎ合わせ、いかに新しい環境としてアップデートすることが、地域創生のために重要かを提示したかった」と、話します。

同著は大林さんのポリシーとそれまでの経験を立体的に編んだ作品のような書籍となっています。

ミット・ジャイイン 《Peopleʼs Wall》2019 Photo: Jim Thompson Foundation Courtesy of the artist and Jim Thompson Foundation

芸術作品と地域の産業に出会える、アートプロジェクト

大林さんが組織委員会会長を務める、国際芸術祭「あいち2022」(会期:2022年7月30日〜2022年10月10日)について、地域性とアートプロジェクトの融合という視点で語っていただきました。


「今回、会場は愛知県名古屋市の愛知芸術文化センターのほか、一宮市、常滑市、名古屋市有松地区の4つのエリアに会場が設置されます。『あいち 2022』をきっかけに、国内外の来場者の方々に日本の地方の魅力を再発見していただきたいですね」

さらに「今回は最低1泊は滞在してゆっくり味わっていただきたい内容です」と、続ける大林さん。「宿泊することは、地方を知るために大事」なのだと言います。「食文化も体験できますし、常滑の焼き物、一宮の繊維、有松地区の絞りといった地域の産業も感じられます」

4つの会場では、価値の高い芸術作品の展示のみならず、地域の個性も引き出した空間が立ち上がることになりそうです。

古いものと新しいものが両方ある世界がいい

インタビューの最後に、今後見たい風景や景色を尋ねると、「私は現代アーティストの作品も好きですが、古いアンティークも好きで、時代を経ても色あせない名品にも惹かれます。そういったものが共存する世界がいい。多様さがあって、色々な文化が混じった世界が見たいと思います」と、語った大林さん。


その答えはクリエイティブな着眼点を必要としながらも、現代的な機能性も大切にする、アート志向だけに傾倒しない建設会社トップのスタンスにも通じる言葉でした。

bottom of page