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世代から世代へ、ハーラン・エステート - カリフォルニアのファーストグロース・エステートができるまで

「モダニズムの偉大な芸術家、パブロ・ピカソがかつて言 ったように、『芸術は日常生活のちりを魂から洗い流して くれる』のです」

カリフォルニアにあるドメーヌ、H. ウ ィリアム・ハーランの新社長に就任したウィル・ハーラン はこう話します。 ウィルがピカソの言葉を覚えているのは偶然ではありませ ん。2021 年初めに父ビル・ハーランから家業のワイン生産ド メーヌを引き継いだばかりですが、ウィルには野望があり、 大胆で芸術的な未来へのビジョンがあることがすでに証明さ れています。 今回のインタビューでウィルは、家族にとって初の試みとな ったハーラン・エステートの設立の背景にある哲学と、ワイ ンづくりを次のステップに運ぶ構想を語ってくれました。


ハーラン・エステートのサンルーム

ハーラン・エステートの誕生

ハーラン・エステート・ワイナリーは、カリフォルニア州オークヴィルの西側 の丘陵地帯にあり、急な傾斜地に広がる段々畑とセントヘレナ山の息を呑むよ うな景観で知られています。海抜 225 ~ 1,225 フィートに位置する 240 エー カーの広大な敷地に広がる自然の美しさを誇るこの環境は、フランス・ボルド ーのシャトーから命を吹き込まれたファースト・グロースのワインをつくるの に最適な標高です。


ハーラン・エステートの歴史は、1980 年代にビル・ハーランがボルドーのフ ァースト・グロースを訪れたことから始まります。その時からビルは、カリフ ォルニアのナパヴァレーでワインをつくり、いつか世界の高級ワインの仲間入 りを果たし、何世代にも渡って受け継がれることを夢見てきました。


現在、醸造家コーリー・エンプティング氏が率いるハーラン家のドメーヌは、 ハーラン・エステート、ボンド、プロモントリーの 3 つのブランドで構成され ています。ハーラン・エステートとボンドを、創業時からのビジョンにより近 づけ、最高のものにする。一方で、プロモントリーを「創造の場」とし、新た なビジョンの基盤をつくる。それが、ドメーヌを引き継いだウィルの狙いです。


父から息子へ:共通のビジョン

ハーランの家族

ビルは 40 年以上にわたり、エステートの設立に尽力してきました。ウィルによると、父ビ ルはいつでも数歩先を見通すことができ、その先見の明をもって作られたのが、200 年計画 だそうです。そして、息子ウィルはその計画を引き継ぎ、現在は責任者として家業のドメー ヌを支えます。


「父と私は同じビジョンを持ち、実現できると信じています。私は、ハーラン・ エステートの将来の姿を表わした 200 年計画とともに育てられましたから。」


しかし彼は、最初からワインの世界で成功することを夢見ていたわけではなかったそうです。 「実は、大学卒業後に IT の世界に入りました。それがきっかけで、サンフランシスコ、つ まりナパヴァレーに近いベイエリアに戻ってきました。その時から少しずつ、ワインビジネ スに興味を持ち始めたのです。」


社長に就任したばかりのウィルですが、父のビジョンを実現すると心に決めています。「も ちろん私は父とは別の人間ですから、ビジョンは同じでも、そこに辿り着くまでに、違う道 を選ぶことも時にはあるでしょう。でも、辿り着きたいと想っているところは同じ場所なん です。」ウィルはこう話します。


気候変動下でのワインづくり

ハーラン・エステートのブドウ園

しかし、ビジョンを実現するための道のりは決して平坦ではありません。気候変動の加速で気温が上 昇し続けワインづくりに深刻な影響を及ぼすなか、世界中のワイナリーと同じく、ハーラン・エステ ートもこれからの環境について考えなければなりません。


「こういった課題ひとつひとつを、将来に取り込んでいかなければなりません」とウィルは言います。 「気候変動は、私たちが長い間、特に意識して見守ってきた問題です。意思決定をするときはいつも、 気候変動を考慮しています」。


地球温暖化の加速は、農業、ブドウ栽培、ブドウ畑の手入れなど、ワインづくりのさまざまな工程に 影響を与えます。


ハーラン・エステートのブドウ畑は森に囲まれていて、この森がワインの特徴づくりや冷涼な環境づ くりに重要な役割を果たしています。しかし気温上昇が続くと、近年世界中で頻発している山火事の 危険が、この森にもおよぶかもしれません。


「私たちのブドウ畑は、将来、どんな環境下にあっても生き延びることができるようにしています。」


そのための予防策として、枯れた木を取り除き、森の生態系のバランスを保つ専任チームを雇用し たそうです。


すべてのボトルに芸術を

ウィルにとって、ワインづくりは芸術的創造であり、人間の力と 自然の力を合わせて美しいものをつくり出すことです。


「ワインづくりは、人間と自然がつくり出す芸術であり、2 つが 協力してできるものだと私たちは考 えます。ですが、私個人としては、 自然こそが本当の芸術家だと思って います。私たち人間の役割は、それ を他の人に伝えられる形に変えるこ とです」。


ハーラン・エステートのワインボト ルを手にする時、ブドウを収穫する 女性を描いた美しいラベルのデザ インに目を奪われます。このラベル にも、他にはないユニークなストー リーがあると、ウィルは教えてくれ ました。


父ビルがワインのラベルを探してい たとき、若い頃に集めていた郵便切 手にインスピレーションを受けたそ うです。「父は、切手と同じような 芸術、深み、暖かみやディテールを どうやって自分のボトルに取り入れ られるかを考えていました」とウィ ルは言います。


ビルは、この切手がアメリカの紙幣を製造しているのと同じ会社 で作られていることに気づき、ワインのラベルづくりに協力して もらえないかとその会社に尋ねました。すると、なんとその会社 は、当時はもう使われていなかったアート作品のファイルを見せ てくれたそうです。そしてそこで見つけたのが、現在ドメーヌの ワインを象徴する女性の姿のデザインだったのです。


「そこで見つけたデザインはまさに父が探していたもので、素晴 らしい深みとディテールを備えていました。父は、部屋の反対側 からでも認識できるようなわかりやすいものであると同時に、近 くで見たときに、質感や深みといった美しいディテールが感じら れるラベルを探しており、まさにそれを見つけたのです」ウィル はこう締めくくりました

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