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場所の記憶を未来へと継承する建築家・田根剛の創造性を探る

1979年東京生まれ。パリを拠点とする国際的な建築事務所ATTA - Atelier Tsuyoshi Tane Architects(以下、ATTA)」の代表として、土地や場所が持つ「記憶」をリサーチして掘り起こし、未来につながる建築を創造する建築家の田根剛さん。2020年には手がけた「弘前れんが倉庫美術館」が、フランス国外建築賞(Le Grand Prix AFEX 2021)のグランプリを取るなど、受賞歴は多数。「エストニア国立博物館」、「Todoroki House in Valley」や「LIGHT is TIME」といった独創的な建築を手がける田根さんに、建築という文化が持つ役割について語っていただきました。


田根剛

場所や人との出会いが価値観を拡張させる

幼少期は物静かな性格でしたが、運動が好きで、時間さえあればサッカーをしている少年だったそう。


「試合に勝つことはもちろん、いいチームを作ることに強い関心がありました。サッカーはメンバー全てがそれぞれ考えながら動き続けるスポーツで、仲間を生かす発想が大切です。建築の仕事とは全く関係のないように思われる分野ですが、現在でも生かされていることはたくさんありますね。」

高校在学中はユースチームでプロサッカー選手を目指していましたが、怪我をきっかけに断念。1998年に北海道東海大学芸術工学部建築学科に進学し、在学中にスウェーデンのシャルマス工科大学へ留学しました。卒業後はデンマーク王立アカデミーで客員研究員を1年経て、その後、デンマークとイギリスの設計事務所に勤務しました。

さまざまな国から来た留学生たちと出会い、グローバルな交流を行う中で、自分の価値観が拡張されていく感覚があったと言います。


転機が訪れたのは、26歳の時。2006年に友人ふたりと応募したエストニア国立博物館の国際設計コンペに優勝。旧ソ連時代の軍用滑走路を使った案が、エストニア民族の記憶を継承する建築になるとして評価されました。これを機にDGT.を結成し、フランスパリを拠点に活動をスタートさせました。


人との出会いを大切にしている田根さんは、世界的クリエイターたちとコラボレーションしています。


そのクリエーションのひとつが、日本人で初めてフランスでミシュランの三つ星を獲得したシェフ小林圭さんのレストラン「Restaurant Kei」の内装を手掛けるプロジェクト。パリのエンパイアスタイルにある歴史的建造物を改装し、小林シェフの芸術的で洗練された料理の世界観を表現するレストランを手がけようという構想から、クリスタルと大理石を用いた光に浸る空間「Lagalerie des glaces – 鏡の間」が生み出されました。


「三つ星クラスのレストランを作ることはATTAにとって初の取り組みでした。フランスでもフレンチの古典的な空間が減っています。ひとつのステータスとしてベルサイユ宮殿のような空間を取り入れました。」


「信頼し尊敬できる人といい仕事をしたい」と話す田根さん。クリエイティブな建築をチームで作り上げていく、一貫した行動指針をうかがい知ることができました。


エストニア国立博物館 © Propapanda / image courtesy of DGT.

「場所、記憶、時間、空間は切り分けることができない」

20世紀の近代化に伴い建築業が国際化してから、人が暮らす環境を支える街並みを形づくる建築という文化が、産業に変わってしまった面があると言います。

「産業は消費を促す発想でサービスを行います。建築は場所があって初めて創ることができる。この順序が逆転してはいけないと思います。ですが今は、多くが経済的なものや効率を優先しています。」


日本は特にその傾向が顕著だと指摘します。


「時間が経って建物の価値が下がったからその建物は壊そうという発想はおかしい。時間と共に価値が高まる建物はたくさんありますし、土地固有の文化や文明が失われ、忘れられてしまいます。場所、記憶、時間、空間を切り分けることはできません。文化的な建築を土地に残し育てていくことの重要性と向き合うことが今、重要ではないでしょうか。」

初期からテーマとして掲げている「場所の記憶」への思想を深化させ、建築家の社会的な役割について向き合っていきます。

考古学的リサーチ © Atelier Tsuyoshi Tane Architects

「僕らは場所の持つ記憶を心から信用している」

「考古学的なリサーチでその場所の本質的な記憶を発掘し、それをもとに実験的な取り組みを行いながら建築を創り、その場所の記憶としてこれまでに積み上げられた人類の叡智を未来に残していきたい」と語る田根さん。ATTAは「Archaeology of the Future」をマニフェストに、場所の記憶から未来の建築をつくるプロジェクトを多数進行しています。

「考古学の分野では新発見が歴史自体を変えることがあり、そういった面にシンパシーを感じています。」


最新のプロジェクトとしては、パリのコンコルド広場前に位置する18世紀にルイ15世がフランス王室コレクションの保管場所として建てた建物オテル・ドゥ・ラ・マリーン内に、ザ・アール・サーニ・コレクションの美術館が11月18日にオープンしました。新世代の建築家として、遠い記憶と未来をつなぐ活動に邁進しています。

「僕らは場所の持つ記憶を発掘したいと思っています。場所が覚えていてくれれば、世代や時代が変わっても、文化の継承はできるので。建築にはそういった可能性があると思っています。」


建築に求められる社会的意義を自身に問い続ける新世代の建築家は、常に土地に根ざした受け身の姿勢でありながら、そのクリエーションは未来を創造する強いメッセージ性を持ち、強い個性を放っています。

弘前れんが倉庫美術館 © Daici Ano

ザ・アルサーニ・コレクションの美術館 ©Takuji Shimmura



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