台湾の国立台湾美術館と東京藝術大学が共同企画した展覧会「黄土水とその時代—台湾初の西洋彫刻家と20世紀初頭の東京美術学校」が、東京藝術大学大学美術館で開幕しました。この展覧会は、台湾の近代美術の先駆者である彫刻家・黄土水(1895-1930)の作品を中心に、同時代の日本と台湾のアーティストの作品58点を展示します。
台湾の国宝《甘露水》(国立台湾美術館提供)
開幕式には、台湾文化部の李遠部長(文化相)、国立台湾美術館の陳貺怡館長、東京藝術大学の日比野克彦学長らが出席し、日台文化交流の重要性を強調しました。特に注目を集めているのは、2023年に台湾で国宝に指定された黄土水の代表作《甘露水》です。黄土水は、1915年から1922年まで東京美術学校(現東京藝術大学)で学び、西洋の彫刻技術を修得しながら、独自の芸術表現を確立しました。彼の作品は、西洋の彫刻家ロダンの影響を受けつつ、師である高村光雲からも学び、台湾の地域性を反映した独特の個性と生命力を表現しています。展覧会では、黄土水の作品10点と関連文献が展示されています。《甘露水》をはじめ、《釈迦如来》、《山本農相寿像》などの代表作が並び、黄土水の芸術的成長と時代背景を感じることができます。
また、黄土水と同時代の日本の芸術家たちの作品も展示されています。高村光雲とその息子の高村光太郎、平櫛田中、北村西望、荻原守衛などの彫刻家、藤島武二などの洋画家の作品が並び、20世紀初頭の日本美術界の様相を伝えています。さらに、黄土水と同じく東京美術学校で学んだ台湾の画家たち—李梅樹、陳植棋、陳澄波、李石樵、郭柏川、顔水龍らの作品も展示されており、日台の芸術交流の歴史を垣間見ることができます。この展覧会の意義について、国立台湾美術館の陳貺怡館長は、「黄土水の作品を再評価するだけでなく、当時の日本の芸術界が西洋文化の影響をどのように受容し、地域の特色を保とうとしたかを探る機会になる」と述べています。
黄土水の活躍した時代は、日本の大正時代(1912~1926)に当たり、新旧の価値観が融合し、芸術界に様々なジャンルが花開いた時期でした。黄土水は、この時代背景の中で東洋の精神と西洋の技法の融合を追求し、短い生涯ながら台湾の近代美術に大きな足跡を残しました。
《釈迦如来(釈迦像)》(国立台湾美術館提供)
《水牛群像(帰途)》(国立台湾美術館提供)
展覧会に合わせて、9月6日には東京藝術大学大学美術館でセミナーも開催されます。国立台湾美術館の研究員である薛燕玲氏、東京藝術大学の村上敬准教授、岡田靖准教授による講演が予定されており、黄土水研究の最新成果が共有されます。この展覧会は、単に一人の芸術家を紹介するだけでなく、20世紀初頭の日本と台湾の芸術交流、そして東アジアにおける近代美術の形成過程を考察する貴重な機会となっています。西洋の影響を受けながらも、独自の文化的アイデンティティを模索した黄土水の姿勢は、現代のグローバル化時代における芸術のあり方にも示唆を与えるものでしょう。
展覧会は10月20日まで開催されます。来場者は、黄土水の作品を通じて、台湾近代美術の黎明期を体感するとともに、日本と台湾の芸術交流の歴史を深く理解する機会を得ることができるでしょう。この展覧会が、日台間のさらなる文化交流の促進につながることが期待されます。
黄土水とその時代-台湾初の洋風彫刻家と20世紀初頭の東京美術学校
会期:2024年9月6日至10月20日
会場:日本東京藝術大学大学美術館
主催:東京藝術大学、国立台湾美術館
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