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アーティスティックな日本酒プロジェクト「長谷川栄雅」までの道のり

壁一面をさらさらと流れ落ちる水をバックに、アート作品のように美しく展示された日本酒のボトル。1666(寛文6)年の創業以来、豊かな自然に恵まれた播州・姫路で酒造りを営んできたヤヱガキ酒造の直営販売店「長谷川栄雅 六本木」は、静謐な美の空間です。創業350年を記念し、このブランドを立ち上げたのが、2016年、ヤヱガキ酒造を含むヤヱガキグループ全体の代表取締役社長に就任した長谷川雄介さん。これまでの道のりと今後の展開についてうかがいました。


長谷川 雄介

「音楽と同じくらい、酒を愛せるか」と葛藤

「長谷川栄雅」は、酒造りを始めた長谷川さんの先祖の名前。長谷川家は公家・藤原氏の一族に連なり、長谷川栄雅は藤原鎌足の33代目子孫にあたります。

1977年、創業家に生まれた長谷川雄介さんは、立教大学大学院で経営学を専攻し、博士課程前期修了後、オーディオメーカーで勤務。海外営業を担当しました。「家業を継ぐ前に、食品以外のメーカーで経験を積む必要を感じていましたし、何より音楽が好きなんですよ。音楽に関わるものを作っていることは、大きな誇りでした。」


2007年、酒類や食品、ヘルスケア事業などを多角経営するヤヱガキグループに入社。“音楽と同じく、日本酒も人の心を豊かにする”というビジョンを持ち、経営企画や海外事業展開に携わります。「入社当時、正直に言えば、自分は音楽ほど酒を愛せるか疑問でした。今となっては、日本酒が大好きですけどね。」と笑います。


Refined product display in the shop 2022

アートへと昇華させた日本酒プロジェクト

長谷川栄雅ブランドは、高品質の酒米を生産する特A地区の希少な山田錦を贅沢に使い、名勝「鹿ヶ壺」を源流とする揖保川系林田川の伏流水で醸されています。麹づくりは古くから伝わる「蓋麹法」、搾りは雑味のない繊細な味わいを実現する「袋搾り」など、350年以上の年月で培った伝統の技と経験の結晶です。日本酒の粋を極めた逸品はまさに“発酵の日本芸術”。アート全般をこよなく愛する長谷川さんだからこそ生まれたと言えます。


酒だけでなく、長谷川栄雅プロジェクト全体もアートへと昇華させました。2018年に開店した「長谷川栄雅 六本木」の空間は、キュビズムやポストピカソなど西洋芸術だけでなく、日本画など日本の芸術にも造詣が深い長谷川さんのセンスと、「お酒を楽しむ最高の空間を整え、日本酒はおいしいと心から感じてもらえるシチュエーションを実現したい」という強い想いが生きています。

日本酒体験ができる天井の高い八畳の和室には、柔らかな光が差し込む雪見窓が切られています。陶芸家に特注した酒器でティスティングする5種類の長谷川栄雅の酒それぞれに、国内トップシェフによるオリジナルの「酒のあて」をペアリング。酒器と同じ陶芸家の花器に活けた季節の花が床の間にすっきりと飾られます。清々しい気に満ちた空間で、水の流れる心地よい音に包まれ、粋を凝らした肴と共に酒を楽しむ時間に、五感の全てが高揚します。


プロジェクトでのコラボレーションは「本物」にこだわりました。酒器と花器の製作は陶芸家の保立剛氏、岩崎龍二氏、光藤佐氏。花は華道家・中村俊月氏。日本酒体験の「酒のあて」を手掛けてきたのは、「La Maison de la Nature Goh」福山剛シェフ、「été」庄司夏子シェフなど、新進気鋭のシェフたちです。



感動の体験から生まれた「長谷川栄雅 六本木」

「お客さまには、この空間で過ごしたことを“忘れられない体験”として、持って帰っていただきたいんですよ。うちの酒じゃなくても、日本酒にもっと親しもうという気持ちになれる場所でありたいです。」と長谷川さんは静かに語ります。家であっても、丁寧に活けた花を眺めながら、品の良い酒器に注いだ日本酒を落ち着いてゆっくり味わう生活は、人生を彩り豊かにしてくれます。

長谷川さん自身にも“忘れられない体験”があります。それは入社したオーディオメーカーでの最初の研修。最高級設備のオーディオルームで聴いたエリック・クラプトンの演奏に「設備や環境が違うと、ここまでいい音で再現できるのかと衝撃でした。エリックが目の前にいるように感じましたね。」

この感動と、環境をトータルで整える重要性を実感したことが、長谷川栄雅プロジェクトにもつながっているのです。


「日本酒がクールなものとして、グローバルに評価される日がくることが願いです。」と話す長谷川さん。日本酒は、太古から自然を慈しみ、妥協のない技を用いて質の高さを追及するという、日本人の価値観と「美しい心」そのものです。しかし国内においてさえ、日本酒はまだ正当にその価値を理解されていないと、長谷川さんは感じています。

日本の豊かな文化と美を体現している日本酒を国内外にさらに発信するため、伝統に固執せず、「本物」とのコラボレーションで付加価値を高めていく。よりクリエイティブに、よりアーティスティックに。日本酒の無限の可能性を信じる長谷川さんの挑戦と革新は続きます。


長谷川栄雅 六本木

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