パリがかたちづくるアートフェアカリム・クリッパが語る、文化、コレクター、そしてアート・バーゼル・パリの次なる展開
アート・バーゼル・パリは2026年10月23日から25日まで、グラン・パレで開催される。第5回となる今回は、41の国と地域から211の出展者が参加。2025年11月1日にディレクターへ就任したカリム・クリッパが初めて指揮を執るエディションとなる。

編集、コミュニケーション、現代美術の領域で経験を重ねてきたクリッパにとって、アートフェアは市場であると同時に、作品の背景にある物語や思想、人々が出会う場でもある。2026年もGaleries、Emergence、Premiseの3部門を軸に展開し、Public Programを通じてパリの街や文化機関との関係をさらに深めていく。
クリッパが掲げるのは「革命ではなく、進化(evolution, not revolution)」。GEN DE ARTでは、ストーリーテリング、パリという都市の独自性、そして若い世代のコレクターがもたらす変化について話を聞いた。

市場を超えるストーリーテリング
GEN DE ART:編集、コミュニケーション、そして現在はアート・バーゼル・パリのディレクターと、さまざまな立場で「物語を伝えること」に携わってこられました。その経験は、アートフェアの未来を考えるうえでどのような影響を与えていますか。
Karim Crippa:ストーリーテリングに関してさまざまな役割を経験してきたことは、私がアートフェアを見る視点に大きな影響を与えています。アートフェアは単なるマーケットではなく、議論や対話を生み出すプラットフォームでもあります。
作品やブース、ギャラリーの背景にある物語が、その存在に気づくだけでなく、さらに深く知ろうとするきっかけになることがあります。そこから考えや意見の交換が生まれる。文化を生きたものとして保つうえで、こうした対話はとても重要です。
GEN DE ART:「目指しているのは革命ではなく進化」とお話しされています。5年後、コレクター、ギャラリー、アーティストに、アート・バーゼル・パリがどのように変わったと言われたいですか。
Karim Crippa:私がディレクターになる以前から、すでに多くのことがうまく機能していました。だからこそ、すべてを描き直すのではなく、フェアの輪郭をより明確にし、調整していくことに魅力を感じています。
5年後には、アート・バーゼル・パリが、パリらしい文化と出会い、それを祝うシーズンを代表するイベントだと感じてもらいたい。また、誰に対しても開かれた公共性のあるイベントであることも、より明確にしたいと思っています。
ここで得られる体験は作品の購入だけではありません。世界各地の優れた作品や新しいアーティストを発見し、Public Programを通じて街に展開される大規模なインスタレーションに出会うこともできます。
パリというエコシステム
GEN DE ART:パリは芸術的遺産と現代的な実験が交差してきた都市です。バーゼル、マイアミビーチ、香港、カタールとは異なる独自性を保ちながら、この対話をどのように深めていくのでしょうか。
Karim Crippa:フランスには、世界的な美術館から影響力のある芸術家の長い系譜まで、非常に豊かな文化的歴史があります。アート・バーゼル・パリは、現代とその歴史的背景が交わる場所に存在しています。それはギャラリー、アーティスト、コレクター、美術館、キュレーター、パトロン、文化的パートナーとの年間を通じた交流によって支えられています。
会場となるグラン・パレも重要です。パリを象徴する文化的ランドマークであり、その規模、建築、立地、歴史が、フェアを都市の文化の中に位置づけ、来場者の体験を形づくっています。
Art Baselのネットワークの中でパリ展を特徴づけるのは、強いローカル・エコシステムです。特にフランスのギャラリーは、フェアのアイデンティティと長期的なビジョンの中心にあります。また、ほかの開催地と比べて規模がやや小さいため、より親密でクローズな雰囲気があります。
それぞれのArt Baselには独自のリズムと文脈があります。パリはこの都市そのものによって形づくられながら、同時にグローバルなプラットフォームの一部でもあります。
新しい世代のコレクター
GEN DE ART:若い世代のコレクターは、アクセシビリティ、サステナビリティ、デジタル文化などに対して異なる期待を持っています。既存のコレクターや主要ギャラリーからの信頼を保ちながら、新しい世代とどのようにつながっていきますか。
Karim Crippa:アート市場では、嗜好や収集の優先順位、文化との関わり方の変化を背景に、世代的・文化的な転換が起きています。若いコレクターは、より開かれたアクセス、自分たちの価値観との一致、そしてアーティストや作品の背景との直接的な関係を求めています。これはアート・エコシステムにとって前向きな変化です。
Art Basel and UBS Survey of Global Collecting 2025では、富裕層コレクターが資産の中でアートに配分する割合を増やし、特に若い世代が既存の市場と新興分野の双方で活発に動いていることが示されました。市場を分断しているのではなく、新しいバランスを生み出しているのです。
私たちはフェアへの新しい入口をつくり、現在の文化の体験のされ方とより強く結びつけながら、既存のコレクターやギャラリーが期待するキュレーションの厳密さ、市場でのリーダーシップ、文化機関との深い関係性を維持していきます。Avant-Premièreも、発見と交流のためのより集中した環境をつくり、ギャラリー、コレクター、文化機関、文化界のリーダーたちの対話を深めるための試みです。
アート・バーゼル・パリ 2026 開催概要
会期:2026年10月23日(金)~25日(日)
開場時間:各日11:00~19:00
会場:グラン・パレ
所在地:Avenue Winston Churchill, 75008 Paris, France


