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建築家石田建太朗 - より新しく豊かな鑑賞体験を生む空間を 

1973年生まれ。ロンドンのArchitectural Association School of Architecture(AAスクール)で建築を学び、2004年から2012年までスイスの建築設計事務所「ヘルツォーク&ド・ムーロン」に勤務。同社ではアソシエイトとしてペレス・アート・ミュージアム・マイアミ(マイアミ現代美術館)やトライアングル超高層計画(パリ)などのプロジェクト・マネジメントとリード・デザイナーを担当。現在、イシダアーキテクツスタジオを主宰する建築家の石田建太朗さんにお話を伺いました。


石田建太朗

アクティビティを 助ける器としての建築

古い街並みの中に現代的な高層ビルが混在する都市・ロンドンで大学時代を過ごした石田さんは、このときに「いかに古いものを守りながら、新しい建築が存在させるか」を考えさせられ「建物やデザインが都市に及ぼす影響」を強く認識したといいます。


そんな石田さんが建築家として関心を寄せるのは、建築物よりもパブリックスペースや場。それは「人が集まる空間を作る建築だからこそ、提供できるものがある」からなのだとか。


「たとえばパリのポンピドゥーセンターの前にある広場には、緩やかな傾斜があります。傾斜があることで人はその場に留まり、座って大道芸を見たりする。そういった人の現象に興味があります。ひとつの都市であっても、住宅レベルのスケールであっても、人が集まるコンディションを設えることができる。それは建築固有の力だと思うんです」


さらに「建築家として一番重視するべきなのは、中に何が入るのかということ」「建築は人を幸せにし、人のアクティビティを助ける器であるべき」と続ける石田さん。


この美学は、現代美術作家・奈良美智さんの個人美術館「N's YARD」や日本を代表するアーティストが多く所属するギャラリー「OTA FINE ARTS」など、拠点を東京に移してからも多く手がけてきたアートを鑑賞する空間作りにも現れています。



「N's YARD」

展示空間のための設えを探る

優れたアート作品は置く環境によって見え方が180度変わるもの。美術館やギャラリーを手がける場合「建築家は、作品のメッセージ性を引き出す環境とは何かを探り、アートを展示する媒体として、自然光を生かした構造や、建物や空間のプロポーションといった設えを整えていくことがとても重要」だといいます。

そのため石田さんは美術館を手がけるために世界の現代美術関連の建築を分析し、新しい美術館のタイポロジーを検証する作業を行なってきました。

ですが建設する段階では、どのような作品が入るのかがわからないことがほとんど。そのため、石田さんの仕事はまず、アーティストの思想やそのアーティストが見ているものを学び、研究するところから始まります。


仕事で事例をリサーチしていくなかで、アートの多様さや面白さ、作品の強いメッセージ性に触れ、アート作品が持つエネルギーに感銘を受けたといいます。


「ロンドンのテートモダンにある展示室『タービンホール』は高さ36メートルの吹き抜けがあります。2003年に展示された現代美術作家のオラファー・エリアソンの『The Weather Project』は、大きな空間をどんどん浸食していくようなアート作品でした」


アーティストは石田さんにとって「一般的な価値観とは異なる角度から美や、深い悲しみ、人間らしい生き方を教えてくれる教科書のような存在」なのだとか。


Pictures: FOUR LEAVES Villa in Karuizawa, Japan

サイトスペシフィックな建築とは何か?

そもそも石田さんが現代アートに触れたきっかけは、ヘルツォーク&ド・ムーロンに勤務していた際にデザインコンセプトから竣工までを担当した、ペレス・アート・ミュージアム・マイアミ(マイアミ現代美術館)のプロジェクトでした。

この頃に住んでいたバーゼルという街の個性について、こう語ります。


「ルーブル美術館よりも前にパブリックコレクションを公開した歴史を持つ、1662年創設のバーゼル市立美術館があるなど、アートを身近に感じる街です。また世界有数のアートフェア『アート・バーゼル』が開催される6月には、世界中からアート関係者が集まってきます」

アートから受けるインスピレーションを深化させ、場の個性を仕事に生かしていく石田さんに今後の展望を伺いました。


「建築はサイトスペシフィックなものでなければいけないと思っています。国や気候、使い方が異なれば、同じ建築ができるはずがない。ローカリティやその文脈を読み、分析して初めていい建築ができるのです」「建築は都市や人々の暮らしに介入する、街にとって非常に大きなポジションを担うもの。今後もそういったスタンスでプロジェクトに関わっていきたいです。美術空間については、より新しい豊かな鑑賞体験を生む空間の探求を続けていきたいですね」

そのビジョンは空間を追求する石田さんが持つ固の視点や感性を強く感じさせられるものでした。


OTA FINE ARTS 7CHOME, a project space opened in 2022 in Roppongi

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