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燃やすと青くなる――四宮義俊と『花緑青が明ける日に』

  • 4月10日
  • 読了時間: 5分

「花緑青」という絵具がある。燃やすと幽かな青い光を放つ、美しいが毒を持つ顔料だ。その毒性ゆえに、今日ではほとんど使われなくなった――消えゆくものとして、日本画の材料史に静かに名を留めている。四宮義俊監督は、自身初の長編アニメーション映画にこの名を冠した。それは単なる比喩ではなく、ひとつの創作宣言に近い。彼が一貫して関心を寄せてきたのは、消滅の縁でなお灼けるように輝くものだ。

 

四宮は東京藝術大学で日本画を系統的に学び、2008年に博士号を取得した。日本画の世界には、素材に根ざした厳しい論理がある――顔料は鉱石、貝殻、植物の煮汁から作られ、それぞれが自然界から受け継いだ密度と質感を持つ。「ヨーロッパの油絵具とはちょっと性質が違うんです」と彼は言う。「一つ一つに物質感がある。マテリアルの強みのようなものが」。そして日本画が西洋絵画と根本的に異なるのは、光と影ではなく「色面」で世界を捉えることだ――色彩の平面そのものが意味の担い手となる。この感覚は後に、アニメーションの画面を扱う際の核心的な文法となった。


アニメの世界に足を踏み入れたのは、三十歳に近い頃だった。まず背景美術から始め、新海誠監督の『言の葉の庭』や『君の名は。』など複数の作品に携わり、商業制作の現場でチームによる制作を体得していった。それから十年。幾度も書き直した企画書を携えて、ようやく自分自身の映画を撮り始めた。

 

『花緑青が明ける日に』(英題:A New Dawn)の物語は、一見シンプルだ。都市開発に飲み込まれようとしている創業三百三十年の花火工場、父の果たせなかった願いを叶えようとする青年、そして四年ぶりに故郷へ戻る幼馴染。物語は晩夏の二日間に圧縮され、感情は静かに凝縮される。作品のキーワードは「守破離」――伝統を守り、それを破り、新たに創造する。この言葉は映画の中で繰り返されるが、四宮自身の創作の軌跡そのものでもある。



だが四宮が本当に問いかけていたのは、物語の構造よりも、画面がいかに「呼吸するか」だったのかもしれない。「日本のアニメだと、どうしてもキャラクターと背景を分けて考えがちなんですが」と彼は言う。「今回は風景が動いたり移り変わること自体が、物語に関わる要素なので。動くキャラクターと、動く風景、どちらも主役を担う感覚で作っています」。雨音や風の音は風景の延長として綿密に設計され、光は鉱物顔料の質感の中に溶け込む。


作中にはひとつのストップモーション・アニメーションのシーンがある。パリを拠点に活動するアーティスト、Victor Haegelinが手がけたもので、人形や小道具を実際に動かして撮影するこの手法は、日仏共同制作が残した外来の痕跡だ。「相手が日本人だったとしても自分の考えを伝えるのは難しいのに、フランスの人たちなので」と四宮は率直に言う。それでも彼らは面白がって参加してくれた、と。そのカットに、自分の頭の中にはなかったイメージが映り込んでいた。手描きアニメーションの制約は、描いた手のものしか画面に残らないことにある。しかし異なる文化の手が重なったとき、その境界はひそかにずれていく。「フランスの人たちが作ったところは、明らかに僕の頭の中にはないイメージが入っていて。そこが映画としての広がりを持たせてくれたんじゃないかと思います」。


 

今年二月、本作は第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出された。日本のアニメーション長編の監督デビュー作としては歴史的な快挙だ。会場の上映チケットはすべて完売し、エンドクレジットの音楽が流れ始めた瞬間、観客は隣の人と言葉を交わし始めた――四宮がこの場面を語ったとき、その声には確かな驚きがあった。「日本だとエンディングの曲が終わってから感想を言い始めるんですが、ドイツの人たちは曲が流れ始めたらもう喋り始めていて。すごく新鮮でした」。


ベルリンの観客はまた、「花火」というイメージについての全く別の視点を彼に与えた。日本では、花火はお盆や戦争の記憶と不可分に結びついている。他の国では環境問題として語られることもあり、戦禍の中にある国では脅威の象徴として映ることすらある。「花火一つとっても、これだけいろんな国の人たちの考え方が違うのかと」と彼は静かに言った。ひとつの光が、見る者の目によって全く異なる意味を帯びる。四宮がこの映画で触れようとしていたのは、まさにそこだった――伝統がグローバル化の圧力の中でいかに自らの場所を見つけるか、地域性がいかに普遍の中で声を持つか。


公開後、観客が最も語り合ったのは「色」だったという。キャラクターと風景が同じ次元に共存している、という体験が多くの人にとって新鮮だったようだ。四宮は「狙い通りだったところではあります」と言いながらも、明らかに安堵していた。



次の作品について問うと、しばらく間を置いてから彼は答えた。「今は頭の中が真っ白な状態で」。十年分の積み重ねをすべて差し出した。残るのは、世界がこの作品にどう応えるかを待ち、その響きの中から次の方向を見つけることだ。「やりたいことはいくつもあるんだけど、じゃあ次に何をやるかは、反応や感想を見てから決めたい」。


その誠実さこそが、アーティストとしての四宮義俊の最も際立った資質かもしれない。急いで埋めようとせず、空白の中に留まることを選ぶ。本当に値するものが、自ずと浮かび上がってくるまで。

 

 監督:四宮義俊 © Youji Shimizu
 監督:四宮義俊 © Youji Shimizu

『花緑青が明ける日に』(英題:A New Dawn)は日本全国にて公開中。 監督:四宮義俊 / 日仏共同制作:Studio Outrigger × Miyu Productions / 音楽:蓮沼執太

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