若き研究者からノーベル賞受賞者へ50年2か月を経て再びリンダウへ――Michel Devoretが語る、ノーベル賞と科学者の責任
- 7月2日
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更新日:6 日前
2026年6月、ドイツ・リンダウで開催されたリンダウ・ノーベル賞受賞者会議(Lindau Nobel Laureate Meetings)において、2025年ノーベル物理学賞受賞者のMichel Devoret氏にインタビューを行った。
Devoret氏とは、2025年12月のノーベル賞授賞式期間中にストックホルムで初めて取材して以来、約半年ぶりの再会となる。今回は、ノーベル賞受賞後に訪れた変化、半世紀にわたるリンダウとの縁、そして次世代の研究者へ託したい思いについて話を聞いた。

「ノーベル賞は人生を変えた。しかし、その代わりに自由も少し失った」
まず、ノーベル賞受賞後の生活について尋ねた。Devoret氏は、「最も大きく変わったのは、自分が“公人”になったことだ」と語る。
「インタビューが増えたことだけではありません。人々は以前のように一人の研究者として私を見るのではなく、公の存在として見るようになりました。社会はノーベル賞受賞者に一定の役割や振る舞いを期待します。その期待に応えなければならず、以前のように自由に振る舞うことはできなくなりました。」
さらに、発言にもこれまで以上に慎重になる必要があるという。
「普通であれば、自分が詳しくない話題について多少間違ったことを言っても問題になりません。しかし、ノーベル賞受賞者になると、人々はその言葉を重く受け止めます。だから、自分が知らないことについては、『私はその分野については知りません』とはっきり言う責任があります。」
受賞発表直後の出来事も印象深かったという。
「受賞が発表されたその日、自宅のキッチンにいる私を撮ろうとして、窓の外から写真を撮る人たちがいました。その時、1960年代や70年代に突然スターとなった映画スターたちの気持ちが少し理解できたように思いました。」
一方で、自身が70歳を超えてからこの経験を迎えたことは幸運だったとも振り返る。
「もし10代や20代だったら、もっと大きな衝撃だったでしょう。」
50年2か月前、彼は若き研究者としてこの島に立った
2026年はリンダウ・ノーベル賞受賞者会議創設75周年にあたる。Devoret氏にとって今回の参加には、もう一つ特別な意味があった。
実は彼は1976年、若手研究者としてこの会議に参加している。今回の訪問は、それからちょうど50年2か月後の再訪となった。
「私は今回が初めてではありません。50年前、この会議に若手研究者として参加していました。」
当時の経験は、その後の研究人生に大きな影響を与えたという。
「私にとって忘れられない経験でした。Paul Diracの講演を直接聞くことができたのです。当時、私は量子力学を学び始めたばかりで、毎日のようにDiracの教科書を読んでいました。その本人の講演を聴けたことは、本当に特別な出来事でした。」
50年前のリンダウと現在を比較すると、多くの変化も感じている。
「当時よりずっと大きな会議になりました。参加する若手研究者の競争率も高くなっていますし、運営も非常に充実しています。以前はもっと小規模で、宿泊施設も街中の家庭的な宿でした。」
それでも、本質は変わっていないという。
「若い研究者がノーベル賞受賞者から直接学べる場所であること。それがリンダウの魅力です。」
「Josephson効果」とともに歩んだ40年
今回のリンダウで、Devoret氏にとってもう一つ忘れられない出来事があった。
Lightning Talksの最中、Devoret氏は言葉ではなく、スマートフォンの画面に一文を打ち込み、静かにこちらへ見せてくれた。
Would you mind after this section to make a picture of Brian Josephson and myself? I have worked for 40 years on the effect he discovered in 1962.
「このセッションが終わったら、Brian Josephson博士と私の写真を撮っていただけますか。私は彼が1962年に発見した現象を40年間研究してきました。」
講演終了後、Devoret氏はJosephson氏に自ら声をかけ、二人は並んで記念写真に収まった。
40年にわたりJosephson効果を研究してきたDevoret氏にとって、この一枚は自身の研究人生を象徴する記念写真となった。
後にDevoret氏は、Josephson効果の科学史における意義について次のように説明した。
「Josephson効果は、一般相対性理論やディラック方程式による反物質の予言と同様に、理論が先に示され、その後に実験によって検証された代表的な例の一つです。」
一方で、1985年ノーベル物理学賞受賞者Klaus von Klitzing氏による量子ホール効果は、その対照的な例だったという。
「量子ホール効果は、誰も予想していなかった現象が実験によって発見され、その後で理論が構築されました。」
異なる道筋をたどった二つの発見は、現在では国際単位系(SI)の基礎となる計量標準を支えている。
「Josephson効果はプランク定数 h と電気素量 e による h/2e、量子ホール効果は h/e² を与えます。この二つの発見が、現在の計量標準を支えています。」

若い研究者へ――「研究テーマよりも、誰と研究するか」
世界中の若手研究者に向けたメッセージも尋ねた。
Devoret氏は、多くの学生から「どんな研究テーマを選ぶべきか」と質問されるという。しかし、彼の答えは少し異なる。
「私がいつも伝えるのは、『何を研究するか』ではなく、『誰と研究するか』です。」
若い研究者が研究テーマの将来性を正確に見極めることは容易ではない。
一見目立たない研究テーマが後に重要な分野へ発展することもあれば、有望に見えたテーマが技術的な成熟不足によって成果につながらないこともある。
「研究分野は何度でも変えられます。しかし、自分を育ててくれる指導者や研究環境は、研究人生そのものを左右します。」
学生時代には、自分に合った研究室や、知的に成長できる環境を見つけることが何より重要だと強調した。
科学は世代を超えて受け継がれる
1976年、一人の若き研究者としてリンダウを訪れたMichel Devoret氏は、50年2か月後、今度はノーベル賞受賞者として同じ舞台に立った。
そこで語られた経験や助言は、今度は世界各国から集まった若い研究者たちへと受け継がれていく。
科学は新たな発見によって進歩するだけでなく、人から人へ知識と志が受け渡されることで発展していく。
その営みを象徴する場として、リンダウ・ノーベル賞受賞者会議は75年にわたり、世代を超えた科学の継承を支え続けている。

