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STSフォーラム2026――科学と社会、次世代への責任

2 時間前
読了時間: 7分

京都で考える、科学技術の進歩と人間の責任


STSフォーラム2026 国立京都国際会館 メインホール 全体会合

第23回STSフォーラム年次総会が開かれた国立京都国際会館のメインホール。 Photo: GEN DE ART


千年以上にわたり、京都は文化的伝統を守り、時代に応じて新たな解釈を加えながら、次の世代へと受け継いできた都市である。2026年10月、この古都で議論されたのは、科学の進歩が今後数十年にわたって社会をどのように変えていくのか、そして、その変化に伴う判断と責任を誰が担うべきなのかという問いだった。

10月4日から6日まで、国立京都国際会館で第23回STSフォーラム年次総会(Science and Technology in Society forum)が開催された。今回のテーマは「Navigating Tectonic Shifts in Science, Technology, and Society」。科学・技術・社会の大きな構造変動にどう向き合うかを掲げ、研究者、政策立案者、企業経営者らが、科学技術の革新と、それが社会にもたらす影響を制御する制度との関係について議論した。

中心となったのは、科学によって何が可能になるのかという問いだけではない。技術の進歩が、それを導く政治的、倫理的、制度的な枠組みを上回る速度で進むとき、社会はどのように対応すべきなのか。その根本的な問題が問われていた。


古都から見つめる、長期的な未来

京都は、会議の歴史的な舞台であるだけではない。その文化的景観は、変化と継承の関係を考えるうえでも、重要な視点を与えてくれる。

寺院や庭園、伝統建築は、しばしば保存という観点から語られる。しかし、それらが今日まで受け継いできた背景には、長年にわたる修復や維持管理、そして何を次の時代へ残すべきかという判断の積み重ねがある。

科学研究を支える機関も、これと通じる課題に直面している。研究は実験や批判的検証、既存の知識の見直しによって発展する。一方、その成果を社会に生かすためには、社会からの信頼を維持し、長期的な研究を支え、数十年後に初めて明らかになるかもしれない影響にも対応できる制度が必要となる。

STSフォーラムが重視する長期的な視点は、目先の経済的利益や政治的課題を超えて、科学技術の発展を捉えることを促す。今日の選択が、容易には覆せない形で将来の社会を左右するのであれば、次世代、さらには次の世紀を見据えることが重要になる。


  • STSフォーラム2026の全体会合で上映されたビデオメッセージ。Photo: GEN DE ART
  • 国立京都国際会館に掲げられた第23回年次総会2026のサイン。Photo: GEN DE ART
  • 京都で開かれたSTSフォーラム2026の全体会合に出席した参加者。Photo: GEN DE ART

人工知能の先にある課題

人工知能(AI)は引き続き重要な議題であったが、議論は科学と社会を取り巻く、より広範な課題にも及んだ。

デジタル主権、科学への信頼、持続可能な発展、国際協力。これらの問題は、ますます密接に結び付いている。新興技術をどのように管理するかという判断は、研究成果へのアクセス、技術力の集中、科学的根拠を評価する公的機関の能力と切り離して考えることはできない。

こうした課題は、一国だけで完結するものではない。科学的知識は国境を越えて共有される一方、その活用を左右する規制、研究資金の仕組み、政策上の優先順位は、依然として各国の制度に大きく依存している。

そこには、継続的な緊張関係が存在する。国際共同研究は科学の発展に不可欠である。しかし、地政学的な競争は知識の交流を制限し、研究を支える国際的な協力関係を弱める可能性がある。

そのため、科学外交の意義は、政府間の公式な協力にとどまらない。政治的な関係が難しくなる局面でも、研究者や学術機関が国境を越えて協力を続けられる環境を、いかに維持するかが問われている。


世代を超えて受け継がれる知

年次総会に先立つ10月3日には、ノーベル賞受賞者と若手リーダーによる対話プログラム「Dialogue between Young Leaders and Nobel Laureates」が開催された。

このような交流の意義は、国際的に著名な科学者と直接対話できることだけではない。異なる世代の研究者が、科学の責任について同じ場で考えることにある。

科学の成果は、画期的な発見や受賞歴、個人の業績を通じて語られることが多い。しかし、研究の発展は知識の継承にも支えられている。先達が若い研究者にどのような問いを投げかけ、何を科学的根拠として重視し、自ら考えるための知的な独立性をどのように育むのか。そうした営みも、科学の未来を形づくっている。

次世代に求められるのは、高度化する技術を単に受け継ぐことではない。その技術を何のために発展させ、どのように使うべきかを、自ら判断することである。

この対話は、科学の進歩が、研究成果だけでなく、それを長期にわたって支える人々や制度と不可分であることを示していた。


STSフォーラム2026 ノーベル賞受賞者 若手リーダーとの対話 京都

10月3日に開かれた「若手リーダーとノーベル賞受賞者の対話」に登壇したノーベル賞受賞者たち。 Photo: GEN DE ART


「京都ビジョン」が示す方向性

STSフォーラム年次総会の開催に合わせ、10月4日には米国主催の「Kyoto Vision for a Golden Age of Science(科学の黄金時代に向けた京都ビジョン)」発表イベントが行われた。日本を含む17カ国が賛同した共同宣言である。

この文書は、科学研究を支える機関の強化、人工知能を活用した科学的発見の促進、次世代研究者の育成などを重要な課題として取り上げている。また、研究の組織や資金配分のあり方に加え、科学データ、計算資源、研究基盤へのアクセスが発見を支えるという視点も示している。

「京都ビジョン」は、STSフォーラム自体が採択した宣言ではない。両者は同時期に開催され、科学の未来に関する問題意識を共有しているものの、米国主催の発表イベントで示された政府間の取り組みとして区別する必要がある。

それでも、この文書が京都での議論と深く関わっているのは、科学の発展が個々の発見だけでなく、研究を可能にする制度にも左右されるという認識が、国際的に重要性を増しているためである。

研究資金の仕組み、研究評価の方法、学術機関の独立性、国際協力の環境。こうした条件は、どの研究課題が重視され、どのような発見が社会に還元されるかを左右する。


STSフォーラム2026 グループ討論 セッション 京都

フォーラム期間中に開かれたグループ討論のセッション。 Photo: GEN DE ART


科学への信頼は、いかに築かれるのか

科学的知識は、検証と批判、そして不断の見直しを通じて発展する。この過程こそ科学の強みである一方、明確で即時的な答えが求められがちな社会的議論の中では、科学的な結論の意味を伝えることが難しくなる場合もある。

科学的な問題が政治的判断や商業的利益、急速に変化するデジタル技術と結び付くとき、その難しさはさらに増す。

科学への信頼は、情報を多く提供するだけで得られるものではない。研究過程の透明性、組織としての説明責任、そして得られた知見の有効性と限界を適切に伝える姿勢が必要である。

研究者、大学、政府、企業は、それぞれ異なる立場から、この信頼を支える責任を担っている。科学の信頼性を左右するのは、研究成果の質だけではない。知識がどのような環境で生み出され、社会に伝えられ、実際に活用されるかという過程もまた、重要である。

京都での議論は、科学への信頼を一度獲得すれば終わるものではなく、研究機関と社会との間で継続的に築いていく関係として捉える必要性を浮かび上がらせた。


未来を決めるのは、人間である

最終日の10月6日、会議を通じて提示されたさまざまな課題は、科学技術の可能性と、それを扱う人間の責任という問題へとつながっていった。

科学的な発見そのものが、社会への影響を決定するわけではない。研究室で生まれた知識が人々の暮らしに届くまでには、技術へのアクセス、責任の所在、経済的な優先順位、利益とリスクの分配をめぐる数多くの判断が存在する。


そして、その判断を下すのは、不確実な状況の中に置かれた人間と社会制度である。


京都という都市は、この問題を考えるうえで示唆に富んでいる。長い歴史の中で文化を守り続けてきたのは、変化を拒むことではなく、何を残し、何を新しい時代に合わせて変えていくべきかを選び続けてきたからである。


科学技術の未来についても、同じことが言える。人類の未来を形づくるのは、科学によって何を発見できるかという可能性だけではない。何を発展させ、何を守り、何を次世代へ引き継ぐのか。その選択にこそ、私たちの責任がある。


取材・構成:松本オリビア

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