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彫刻家 ・土屋仁応:生み出す幻想的な彫刻の世界

1977年生まれ。2001年、東京藝術大学美術学部彫刻科卒業。2007年、東京藝術大学大学院文化財保存学彫刻修士課程修了。大学院在学時から仏教美術の技術を応用した木彫作品を発表。幻想的でイノセントな聖性を感じさせる彫刻を生み出す土屋仁応さんに、制作についてお話しいただきました。


土屋仁応

作品周囲の空気も造形したい

幼い頃から図画工作が好きで、彫刻を仕事にしたいと思っていたという土屋さん。


「幼稚園の卒園アルバムに、『将来の夢は彫刻家』と書きました。個性や特技を生かし、見守ってくれる家庭環境だったことに感謝しています」


美術大学に入学すると、学びを得るために過去に作られた多くの作品に触れたと言います。そんな土屋さんの心を動かしたもののひとつが、研修旅行中に出会った仏像でした。


「滋賀県の渡岸寺にある渡岸寺観音堂には、十一面観音というとてもきれいな仏像があります。向き合って見ていたら、問いかけられているようでとても感動しました。たなびいている天衣は心地よい風を表現していて、周りの空気も造形されているようでした。こんな作品を自分も作りたいと思いました」


そうして土屋さんは仏像制作の技法を応用した独自の木彫表現を追求していきます。


「ふたつの虹」2021年

像に命を吹き込む

土屋さんは目や鼻、口、手足のあるもので心情を表現したいと思い、動物をモチーフに用いるようになったのだとか。内的な世界を投影する対象として、シンボリックに造形していきます。


動物は一般的なイメージとは異なるものになるように意識しているといいます。


「ライオンといえば“強さ”の象徴ですが、あまり強くない獅子(ライオン)だったらどうだろう、とか。いい意味で裏切るようなものにすると、作品が自分自身で歩き出す感覚があるんです」


土屋さんの作品には、仏像彫刻で用いられる技法「玉眼」が用いられています。ガラスや水晶の瞳が入り、命を吹き込まれた木像たちが向けるまなざしはどれも印象的です。しかし表情は初期にデザインされたものではなく、制作過程で生まれてくるものなのだそう。


「顔は初めからだいたい決めていますが、表情や性格は作りながら決まっていきます。他人事のようですが、どのようになるかは僕にもわかりません」


さらに土屋さんの作品の特徴でもある、乳白色の色使い。立体作品にさまざまな色や模様があると邪魔になるため、この彩色方法を選んだのは「必然だった」と言います。

「赤ちゃんの肌のようなフワッとしたニュアンスを表現したいと思っています」「白い下地を塗り、ピンクの淡い色を目の周りなどに入れると、急に血が通った印象になります。それは自分でも面白いと思うところですね」


制作には作者にも想像できない工程が含まれるとは、まるで自立した生命が誕生するエピソードのようです。



技法と表現の追求が独創性を形作る

「彫刻に色を付けることを邪道に感じるアーティストも中にはいるでしょう」と、土屋さん。


ですが表現者として技法を試行錯誤することは避けられないのかもしれません。

「昔は何か正解があって、誰かが教えてくれるだろうと漠然と思っていた時期もありました。今は自分で自由に試すことが重要だと思っています」

土屋さんは透明感や素材が持つ性質を生かすことも重視しているとか。


「薄いテクスチャーは、彫刻の質感と共存させるためには大切なんです」


自重を感じさせない生き物たちの幻想的なフォルムは、仏像を参考にしていると言います。

「地球の重力を感じるようなものではなく、月の世界にいるような、フワッと舞い降りた感じが出せると、自然と作品の周りの雰囲気も変わってきます」


では独自の造形のイメージは、どのようなものから着想を得ているのでしょうか。尋ねてみると、とても意外な回答でした。「庭の植物です。成長して形を変えていく様子は、見ていて面白いですね。『このカーブは良いな』とか。そうやってシルエットを思いついたこともあります」


柔らかな丸みを帯びた動物たちの静的なかたちは、植物由来のものなのかもしれません。


「観音」2019年

アートを身近に

最後に今後、挑戦したいことを伺いました。


「これまで乳白色の作品を制作してきましたが、さまざまな色を使ってみたいという気持ちがあります。また透明感のある木とは別の素材で、木には出せない表現にも挑戦したいと思っています」


さらに新しい試みとして、木彫作品をミニチュアで表現したアートトイをオンラインショップで販売しています。


「何年も前からやりたいと思っていたので実現できてとても嬉しいです。生活の中で身近にアートを楽しんでいただきたい。これは今後も続けていきたいと考えています」と語った土屋さん。


技法と表現の追求が唯一無二の表現を形作ることを物語る、作品の数々。新しい可能性を追求し続ける、脈打つような表現者のエネルギーに触れた瞬間でした。



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