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好奇心から「楽」の追求そして感謝へ書道家武田双雲の哲学

「明るい」「楽しい」という言葉が似合う武田双雲さんは、書道家としての活躍はもちろん、現代アーティストとしても注目を集めています。明るく前向きな生き方は、多くの人に活力を与えています。


武田双雲さんは、1975年に熊本県に生まれ、書家である母・武田双葉に師事しています。東京理科大学卒業後、NTTに入社し3年の勤務を経て書道家の道を歩みます。映画やテレビなど数多くの題字やロゴを手掛け、近年は海外へ活躍の場を広げています。


武田双雲さんの明るさの源となる哲学についてお話を伺いました。


武田双雲

好奇心と感謝だけで 生きると決めた

母親が書家という環境から3歳から書道を始めた武田さん。しかし、幼少期は「なぜ字は書き順が決まっているのか」「下手と上手の違いは何」など好奇心の強いお子さんだったと言います。わざと字を崩して書いたり、薄く書いたりして字で遊ぶことも多かったそうです。


大学が理系ということで、武田さんは今でも頭の中は原子や数式に溢れていて、知識も豊富です。書に対しても「書かなければならない」という気持ちはなく、長い銀河系の時間の中で今ここにいる感謝の気持ちと好奇心だけを持つようにしていると語ってくれました。


「独立してからの20年間があまりにも天国。毎日がパラダイス」と嬉しそうに語る武田さん。取材の際も様々な色の墨汁を感性のままに使い作品を制作してくださいました。自分が言葉や漢字を作ったわけではなく、書道の歴史や文化、職人が培ってきた技術の中に「参加させてもらっている」という気持ちで独立してからの20年間を過ごしてきたそうです。


好奇心と感謝だけで生きると決めてからは、それ以外の感情をあまり持たないようにコントロールしてきたといいます。毎朝「自分の心をリラックス&エンジョイに整えてから起きるから笑いが絶えない」と語るその眼は、少年のようにキラキラと輝いていました。


丁寧に味わう所作が人生を「楽」にする

人生の漢字を「楽」にした理由をお聞きしました。楽という漢字には、リラックスとエンジョイの意味が込められているから。「明るさや楽しさは書道やアートになる」と教えてくれました。「リラックスとエンジョイは自分に任せて」と言えるような気持ちが「楽」には込められているのではないでしょうか。

書道家として独立するきっかけは、自分の作品に涙を流している人を見たからなのだそうです。筆で描いただけの作品に何が伝わり感動させているのか興味をもったそうです。武田さんにとって、感動とはどのようなものなのでしょうか。「すべてに感動します。自分にも感動します。何十兆個もの細胞が自分の中で何も考えずにコラボして。神様の作ったことを鑑賞して感動して感謝が湧いてくる。」感動と感謝が制作の根本にあることを感じさせる言葉です。


武田さんは「楽しむことは好きだから自然にできる。ただ、感謝することは当たり前になって忘れてしまう。だからこそ意識して感謝するようにしている」といいます。意識して感謝するために行っていることが所作のコントロールです。人間を研究し、感情をコントロールすることは難しいけれど、和やかな顔「和顔」をすることで感情が安定すると感じたそうです。安定した感情の中で一つ一つの所作を丁寧に行えば感謝の気持ちも自然と湧き出てくるのかもしれません。


続けて「否定的な見方ばかりでは、感動も感謝も生まれない。感動が深いほど何とか工夫してこの世の素晴らしさを伝えたい。否定的な情報はほんの一部で全体をみれば世界は素晴らしいと伝えたい」と語ってくれました。


これからも進出ではなく 貢献をしたい

現在武田さんは、和紙工房で和紙を手作りし濡れている状態の和紙に手で字を書く作品を制作しています。真っ白い紙に白い字を書く作品は、まさにピュアな作品です。武田さんは自身も「ピュア」と言われることがあるそうです。「“今”の人生を生きているので自分には時間軸がない」という言葉からは、将来の計画や野望よりもピュアな感動と感謝で今を楽しんでいることが伝わってきます。


武田さんは、ポジションへのこだわりや背負った過去によって忘れてしまったピュアな感情に自身の作品を通して気がつく人がいるのかもしれないと語っています。


これからの活動については、まずは自身が書道の歴史や職人の技術に感謝し、それから日本の素晴らしさを海外に伝えていきたいそうです。相手の文化を受け入れて感謝することから始めたい。自分が伝えたいことだけ伝えるのではなく、相手の立場になって「何に幸せを感じるのか」を考えることが重要と考えているそうです。アートは、作る人と見る人とのコミュニケーションです。これから目指すことは海外“進出”ではなく“貢献”と語ってくれました。


書道は言葉であり、言葉を選ぶだけでコミュニケーションとしての役割は果たします。しかし、武田さんの作品は言葉では言い表せない伝わるものがあります。それは感動であり感謝なのかもしれません。言葉が通じない海外でも心をとらえている理由は、世界共通の感覚「楽」「感謝」が人々の心に響いているからではないでしょうか。



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