第3回 Tokyo Gendai ──「Hana Artist Award」創設とアートフェアの新たな挑戦
- Gen de Art
- 8月13日
- 読了時間: 3分
高根枝里ディレクターが描く、フェアの使命
東京の現代アートシーンを国際的に牽引するアートフェア「Tokyo Gendai」。その第3回を目前に控え、私たちはディレクターの高根枝里氏に、アートと社会、そしてフェアが果たす役割について話を聞いた。

若手アーティスト支援の新たな扉——「Hana Artist Award」創設の背景
今年初めて創設された「Hana Artist Award」。その狙いについて高根氏はこう語る。
「実はフェア初年度から“若手アーティスト支援”はやりたいと思っていましたが、ついに実現できて本当に嬉しいです。キャリアの浅い作家や、認知度がまだ高くないギャラリーの活動を後押しするため、この賞を設けました。受賞者には賞金1万ドルを授与します。加えて、国際的に著名な審査員による評価や、受賞作のプロモーションを通じ、若手作家や所属ギャラリーの認知度を高める機会にしたい。たとえば将来、美術館の展示につながるような“きっかけ”になれば、と考えています」
「Tsubomi “Flower Bud”」展と、日本の女性アーティスト
Tokyo Gendaiの象徴的なセクターである「Tsubomi ‘Flower Bud’」。今年は、日本の伝統工芸技術を用いる女性現代アーティストに焦点を当てた特別展が組まれている。
「Tsubomi ‘Flower Bud’は、社会課題に焦点をあてた展示を毎年展開しています。1年目は私自身が女性であり、ジェンダーギャップが大きい日本で、自分の声を反映したいと思ったのがきっかけで日本人女性作家の展示を展開しました。今年は工芸の技法を使う女性作家に注目し、作家の選定は私自身、そこに橋本麻里さんがアドバイザーとして入ってくださっています。日本の工芸には“職人”の文化が根付いていますが、現代作家は自身のコンセプトやアイデアを重視し、伝統的な技術を新たな表現に昇華しています。特に現代の女性作家たちが、自らの視点で工芸と向き合い、作品を通して社会に問いかけていることを伝えたいと思っています」
国際的文化交流のハブとして──Tokyo Gendaiの意義
「今年は約70のギャラリーが参加し、その半数以上が海外からの出展です。日本の来場者にとっては世界のギャラリーやアーティストと出会う貴重な場であり、逆に海外の関係者にとっても日本の現代アートの最前線を体験できる機会です。文化の“エクスチェンジ”を通じて新たなコミュニティが生まれ、アートのインフラが徐々に整ってきていると実感しています」
海外やテクノロジー分野での経験とTokyo Gendaiの未来
高根氏は、ニューヨークでの長期滞在やGoogle Arts & Culture日本担当としての経験を活かし、Tokyo Gendaiの運営に臨んでいる。
「Google Arts & Culture時代は、日本の美術館コレクションのアーカイブ化や、文化発信を担当していました。アートフェアも“インフラ”だと考えており、多様な立場の人が集まり、コミュニティを創出する場です。私自身の海外経験やテクノロジー分野の知見が、今のTokyo Gendaiにも生かされていると感じます。現代アートを通じて、日本の文化を世界に発信し、また海外の動きを日本にも紹介していきたいと思っています」
これからの展望──「長い時間軸で見守ってほしい」
最後に、Tokyo Gendaiの今後の目標について尋ねた。
「1年目、2年目と積み重ね、ようやくフェアとしての基盤ができ始めた実感があります。アートやコミュニティの世界は、短期的な成果を求めるものではありません。これからも長い目で、アーティスト、ギャラリー、そして観客にとって“使い続けたくなるプラットフォーム”を目指していきたい。私自身、出産や育児と両立しながらですが、これからもフェアの現場で皆さまとお会いできるのを楽しみにしています」
2025年のTokyo Gendaiは、現代アートと社会をつなぐ、真に国際的な文化交流のプラットフォームとして、その存在感を増している。高根氏の言葉が示す通り、ここには“未来をつくる対話”がある。その一歩一歩に、これからも注目していきたい。