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記憶の色を辿る――早川千絵監督『ルノワール』インタビュー

カンヌ国際映画祭コンペティション部門に日本映画として選出された『ルノワール』。

本作でメガホンを取った早川千絵監督は、自身の子供時代の記憶をすくい上げるように、ひと夏の物語を丁寧に描き出した。

『ルノワール』ポスタービジュアル © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
『ルノワール』ポスタービジュアル © 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

偶然の静けさが導いた創作の時間

 

「『PLAN 75』の準備がコロナで止まり、ぽっかり時間が空きました。その時、“子供を主人公にした映画を書いてみよう”と思い立ったんです」。誰にも邪魔されない静かな日々のなか、早川監督は机に向かい、無理のないペースで脚本を書き進めていった。



鈴木唯が映し出す、少女フキの心

 

主人公・沖田フキを演じたのは、当時11歳の鈴木唯。

「彼女には安心して現場にいてもらえるよう、たくさん話し合い、リハーサルも重ねました。フキという役に、鈴木さん自身の柔らかさや芯の強さが自然とにじみ出るように、私も見守る形で作っていったんです」。監督が映画に込めたかったのは、自身の幼少期に感じていた複雑な思いだ。「私が子供の頃、言葉にできなかった感情を、今回はしっかり見つめ直して物語にしました」。


80年代の空気が息づく美術と映像

 

舞台は1980年代の日本。「スタッフと相談しながら、“温かくて、どこか懐かしい世界”を意識して、画づくりを進めました。『PLAN 75』とはまったく違う、優しさと親密さのあるトーンを目指しています」。


 

国境を越えて伝わる“映画をつくる喜び”

 

『ルノワール』は、日本だけでなくフランスやシンガポール、インドネシア、フィリピン、カタールのスタッフが参加した国際共同制作だ。「フィリピンで撮ったシーンでは、現地のスタッフたちが本当に明るくて、“なんとかなる!”と笑ってくれるんです。日本の現場とはテンポも文化も違いますが、映画作りへの情熱は世界共通。いろんなやり方や価値観に触れたことが面白く、大きな学びになりました」。

 

 

“フキ”のきらめき、世界へ

 

カンヌでの上映後、主演の鈴木唯が世界の観客や批評家から称賛を集めた。「“自分の子供時代を思い出した”“フキに自分を重ねて胸が熱くなった”と感想をいただきました。映画を通じて人の心の奥深くとつながれたような気がして、とても嬉しかったです」。


観る人それぞれの、静かな記憶へ

 

最後に観客へのメッセージを尋ねると、早川監督はこう語る。

「大人の観客には、“忘れていた記憶”がふっとよみがえるような映画体験をしてもらえたら、それが一番の願いです。子供が観てくれるなら、まだ言葉にならない感情を抱えた子供たちが、この映画から何かを感じ取ってくれたら、それ以上の喜びはありません」


 

『ルノワール』は、誰もが心の奥にしまいこんでいた記憶と、そっと向き合うきっかけをくれる。

スクリーンの向こうに、あなただけの物語が静かに立ち上がる――そんな夏を、ぜひ劇場で味わってほしい。

『ルノワール』予告編

監督プロフィール

 

早川千絵(はやかわ・ちえ)/映画監督・脚本家

 

短編映画『ナイアガラ』(2014)がカンヌ国際映画祭シネフォンダシオン部門正式出品となり、以降、国内外の映画祭で注目を集める。

 

長編デビュー作『PLAN 75』(2022)は、第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰に輝く。

同作は第95回アカデミー賞国際長編映画賞・日本代表に選出されたほか、第63回テッサロニキ国際映画祭で最優秀監督賞・FIPRESCI国際批評家連盟賞・観客賞(3冠)、第16回アジア・フィルムアワード監督賞ノミネート、中国で最も権威ある第35回金鶏奨(金鶏賞)最優秀外国語映画賞ノミネート、第58回シカゴ国際映画祭監督賞ノミネートなど、世界中の映画祭で高い評価と多数の受賞・ノミネートを得た。

 

社会の在り方や生と死の問題など、現代的テーマを繊細かつ力強く描く独自の作風で知られる。

『ルノワール』(2025)は、自身二作目の長編監督作として、第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された。

早川千絵監督  「写真:西山勲」
早川千絵監督 「写真:西山勲」

『ルノワール』

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6月20日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー

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© 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners

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配給:ハピネットファントム・スタジオ

 

鈴木唯

石田ひかり 中島歩 河合優実 坂東龍汰

リリー・フランキー

 

脚本・監督:早川千絵

 

製作年:2025年/製作国:日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタール/上映時間:122分

スクリーンサイズ:ヨーロピアンビスタ/音声:5.1ch/言語:日本語、英語/英題:RENOIR/映倫:G


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