男女のすれ違う愛情をテーマに、人間の心の内なる葛藤を壮大に描いたピョートル・チャイコフスキーのオペラ代表作「エウゲニ・オネーギン」(全3幕、約3時間5分)が1月24日、27日、31日、2月3日の4日間、新国立劇場(東京都渋谷区)で公演されました。
ロシアのスペシャリストが集結
19世紀のロシアを舞台に、主人公「オネーギン」を取り巻く貴族社会、田舎の地主の生活、農民たちの風習などを生き生きと描いたアレクサンドル・プーシキンによる同名小説が原作です。チャイコフスキーは37歳の時にオペラ化に取り掛かり、およそ8カ月で「手紙の歌」、「青春は遠く過ぎ去り」などの名曲を完成させました。
ヨーロッパで実力派バリトンとして名声を博すユーリ・ユルチュク氏がオネーギンを、また、世界トップソプラノの一人、エカテリーナ・シウリーナ氏がオネーギンとの愛情のすれ違いに悩む女性タチヤーナを演じるなど、ロシア・オペラのスペシャリストが集結しました。また、タチヤーナの母である農村の女地主ラーリナをメゾソプラノの郷家暁子氏が演じ、日本人歌手も随所で舞台を引き立てました。
男同士の嫉妬心は決闘へと
第1幕。女地主宅での2人の出会いによって、物語は始まりました。ラーリナの2人の娘、読書好きで物静かな姉タチヤーナと、陽気で外交的な妹オリガのもとへ、オリガの婚約者レンスキーとその友人オネーギンが訪れました。
一目でオネーギンに恋し、手紙をしたためるタチヤーナ。しかし、ニヒリストのオネーギンは、自分は結婚生活には向かない人間だと告げ、「自分自身をコントロールする術を学びなさい」と冷ややかに説教し、その思いを打ち砕くのです。
ラーリン家の舞踏会に舞台を移した第2幕。オネーギンがタチヤーナと踊っていると、集まった客らは二人の噂話に花を咲かせます。
「つまらない舞踏会に誘った」とオネーギンはレンスキーへの腹いせにオリガとばかり踊ります。これを侮辱と捉えたレンスキーはオネーギンと激しく口論し、ついに決闘へと。華やいでいた舞台が一気に緊張感に包まれます。
決闘は、凍てつく冬の朝、水車小屋の前で行われます。
過ぎ去りし日々を懐かしむレンスキー。そこへオネーギンが到着。介添え人が差し出す2丁の銃。オネーギンの撃った弾に倒れるレンスキー。オネーギンは戦慄し、我に返ります。
第3幕。社交界から離れ、放浪の旅を続けていたオネーギンは数年後、ある公爵の邸宅で行われた舞踏会に参加し、そこで今や公爵夫人となっていたタチヤーナと再会します。
タチヤーナの優雅な姿に心を燃え上がらせるオネーギン。何通もの手紙に心を動かし、「あなたを愛しています」と告げるタチヤーナ。しかし、彼女はこうも続けます。「過去は戻らない。永遠にさようなら」。そして、絶望したオネーギンがただ一人取り残されたのです。
人間の性を見事に描き出す
ドミトリー・ベルトマン氏の演出は、現代的な視点で人物を自然に生き生きと動かし、また、美しい美術、衣装も見応えがあり目を引きました。新国立劇場合唱団による合唱、東京交響楽団による管弦楽は、チャイコフスキーの名作を歌い、奏で、舞台を盛り立てました。
幾度となく閉じ、開くカーテンコールで礼をするキャストたちに、会場からは万雷の拍手がやみませんでした。愛情、そして友情。時にすれ違い、そして離れていくどうすることもできない人間の性(さが)とも呼べる心情と葛藤を、チャイコフスキー、そして現代芸術家が見事に表して見せたのです。
『エウゲニ・オネーギン』
写真の提供:新国立劇場
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