2024年11月12日、13日に東京都内で開催された独日仏AIカンファレンス。「生成AI:民主化、透明性、持続可能性への道筋」をテーマに、人類の知的活動に大きな転換をもたらす次世代型AIについて、各国の研究者たちが議論を交わしました。主催団体の一つであるドイツ 科学・イノベーション フォーラム東京(DWIH東京)のディレクターで、ドイツ学術交流会(DAAD)東京事務所所長も務めるアクセル・カーペンシュタイン氏に、両国の協力体制の現在と未来について伺いました。
© DWIH Tokyo
世界を超えて深まる学術交流
来年2025年、設立100周年を迎えるドイツ学術交流会(DAAD)。世界最大規模の学術交流機関として、グローバルな知の交流を支えてきました。DWIH東京は2010年に東京に設立され、2017年よりDAADがその運営を担っています。現在、DWIHは世界6都市(米国2拠点、日本、インド、ブラジル、ロシア各1拠点)にセンターを展開しています。
「DWIHの本質的な役割は、研究とイノベーションを結ぶプラットフォームの構築です」とカーペンシュタイン氏は説明します。「『研究』は大学や研究機関による学術的探求を、『イノベーション』は研究集約型産業やスタートアップによる革新的な実践を指します。この両者を有機的に結びつけることで、新たな価値創造を目指しています」。
相互補完による価値創造
世界各地のDWIHは、年間共通テーマのもと緊密な連携を保ちながら、それぞれの地域特性を活かした活動を展開しています。日独協力において特に注目すべきは、両国の得意分野の違いがもたらす相乗効果です。
「グリーンエネルギー、持続可能性、SDGsといった現代社会の重要課題に対して、両国は異なるアプローチで取り組んでいます」とカーペンシュタイン氏。「ドイツの製造業における強みと、日本の電子機器・ハードウェア設計における卓越性。これらを組み合わせることで、より革新的なソリューションが生まれる可能性があります」。
建築分野でも、ドイツのエネルギー効率重視のアプローチと、日本の耐震技術を組み合わせることで、より包括的な「持続可能な建築」の実現が期待されています。
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AIがもたらす知的革新
今回の国際会議では、人工知能が人類の知的活動の領域に踏み込みつつある現状について、活発な議論が交わされました。文学や音楽の創作といった創造的領域にAIが進出する一方で、その制御可能性について慎重な検討も必要とされています。
「2018年から継続的に開催しているAIシンポジウムですが、技術の進化とともに議論の焦点も変化しています」とカーペンシュタイン氏は指摘します。DWIH東京は、ドイツの研究機関による最先端AI研究を支援し、日本との架け橋となることで、より安全で有益なAI技術の発展を目指しています。
特筆すべきは、ドイツ商工会議所が推進する「インダストリー4.0」への取り組みです。製造業のデジタル化を通じた第4次産業革命の実現は、両国の産業界にとって重要な課題となっています。DWIH東京はまた、ドイツNRW州貿易投資振興公社との協力のもと、こうした先端技術分野における日独間のスタートアップ支援も積極的に展開しています。
深まる両国の絆
カーペンシュタイン氏は、日独両国の未来について力強く展望を語ります。「政治的な動きも相まって、両国間でより緊密な協力関係を築こうという機運が高まっています。私たちはこうした流れを強く後押ししていきたいと考えています。また、日本はヨーロッパ以外で、ドイツの大学にとって最も重要なパートナー国の一つです。特に若手研究者の間で日本への関心が高まっており、私たちの奨学金プログラムへの応募者数が大きく伸びています。これは非常に喜ばしい傾向です」。
そして、生成AIの先を見据えながら、両国が共有する社会課題への取り組みにも意欲を示します。「来年は特にライフサイエンスと医学研究に注力したいと考えています。日本では人口の3分の1が65歳以上、10分の1が80歳以上ですが、同時に日本は健康長寿の分野で世界をリードしています。ドイツも高齢化社会に直面しており、がん、認知症、心血管疾患といった加齢に伴う病気への対策を進めています。健康、ライフサイエンス、高齢化社会への対応は、今後特に力を入れて取り組んでいきたい分野です」。
このように、最先端技術の研究開発から社会課題の解決まで、両国の協力関係はますます重要性を増していくことが期待されます。
DWIH Tokyo
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